経営を文化論で語るべきではない
──独裁のメカニズムは日本人の心情に馴染まないのではありませんか。
木谷 私は、先進資本主義国の企業体はすべて同じだと考えています。企業は契約によって成り立っている人工物ですから、基本的には同じメカニズムで動いているのです。独裁のメカニズムももちろん例外ではありません。
「日本では通用しない」という声は確かにあります。そういう人は、日本の組織文化は独特だと言うんですね。例えば、「日本の会社組織は“藩”と同じだ」という指摘があります。江戸時代の藩では藩主の権力は絶対ではなく、家臣が実権を握り藩の運営をコントロールすることがよくありました。日本の組織は伝統的にその形で運営されてきたんだという主張です。
しかし、現在日本企業が抱える問題の原因を日本の文化や日本人のメンタリティーに求めると、何事も解決不能になってしまいます。「何をやっても無駄だ」というあきらめ、静観に行きついてしまう。それは一番まずいことだと思っています。
産業社会学の分野では、日本の企業組織には、日本文化としてステレオタイプ化されているよりもずっと幅広い種類があることや、日本と外国の文化的な相違よりも会社レベルの構造的相違の方が、個々の会社を説明するときにより大きな変数になることなどが、かなり前から統計的に実証されています。
今後、日本企業が様々な問題を解決し、生き残っていくためには、ロジカルに企業統治の仕組みをつくっていくことが必要です。そうしなければ世界を相手に戦えないでしょう。
──この本は、経営を日本文化論で語ることへのアンチテーゼにもなっているわけですね
木谷 経営に限らず政治問題、社会問題でも、日本では文化論として語られがちです。それで満足している人は多い。でも、それでは行き詰まります。リーダーが大局的な視点で意思決定をしなければ、組織は滅んでいきます。だからこの本では文化論を極力排し、独裁力の必要性とその仕組みを、できるだけ乾いた視点でメカニカルに書いたのです。
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