だから、戦略とかフレームワークも大切なんだけど、絵を描くだけじゃダメなんですよね。最終的に会社として決断して実行しなければまったく意味がない。

 では、どうすれば組織が意志決定できるのかというと、やはり1人の人が「これはいける」とゴーサインを出さないと何も進まないんです。それは役員でも社長でもかまわない。とにかく「1人の人」が決定して組織を動かすというのが、ものすごく大事なんですね。となると、どうしても権力の構造に目を向けざるを得なくなる、というわけです。

──日本の会社には独裁力が足りないと。

木谷哲夫(きたに・てつお)氏。京都大学産学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンス寄付研究部門教授。東京大学法学部卒、シカゴ大学政治学修士、ペンシルベニア大学ウォートンスクールMBA。マッキンゼー・アンド・カンパニーに10年間在籍し、金融機関、自動車、ハイテク、通信業界などにおける新規事業立案や業務改善プロジェクトを手掛ける。日本興業銀行、アリックス・パートナーズを経て2007年より現職、起業家教育を担当。

木谷 今の日本では、独裁力を高めなければ沈没してしまう会社がけっこうあると思います。

 かつては、オペレーションを回すだけで会社が成長できる時代がありました。みんなが横並びで同じことをやっていても成長することができた。いま、日本の会社で役員や社長になっているのは、ほとんどがその中で育った人と言ってもいいでしょう。でも、そういう特殊な時代はもう終わっています。

 これからはどの業界でも、今までと同じことを繰り返すだけでは生き残れなくなるでしょう。決めるべきことを決めて、新しいことに果敢に挑戦していかないと、会社は沈没していきます。だからこそいま独裁力が必要なのです。

「ブラック企業」はなぜ優良企業と言えるのか

──本書では、独裁のメカニズムを解説するために、「権力基盤」と「動員力」という2つのキーワードを挙げていますね。

木谷 権力の座にある人が独裁力を高めるには、まずは「権力基盤」を確保することが必要です。どういう人をコアメンバーにして手なずけるのか、コアメンバーの反乱を防ぐにはどうすればいいのかなど、権力基盤の仕組みを理解することが大切です。