だけど、それだけでは不十分です。権力の座に長い間居座ることができたとしても、「動員力」がなければ対外戦争には勝てないからです。権力者が国民全体(もしくは社員全体)を動かすことができないと戦闘力が弱くなり、戦争には勝てないのです。専制国家が往々にして戦争に弱いのは、権力基盤がいくら強固でも国民全体からの支持がないからです。

──ユニクロを率いるファーストリテイリングの柳井正社長と、JALを立て直した稲盛和夫さんは、実は同じ独裁のセオリーを実行している、という指摘は新鮮でした。ユニクロもJALも「民主独裁型」の企業である、と書かれていますね。

木谷 民主独裁型の最大の特徴は、身分制ではないということです。どこの大学を出たとか、何年に入社したかは関係がない。身分が固定された階層に分かれていないということです。「この人の言っている通りに努力すれば、誰でもうまくいく。誰でも偉くなれる」という点で完全に民主制なんですよ。

 そして同時に、ある特定の価値観や原理で集団を束ね、みんながそれに沿って行動しているということです。

──いわゆるビジョンとかミッションですね。

木谷 マッキンゼーもそういう会社です。1つの価値観で社員を強力に束ねている。だからみんな死ぬほどよく働く。徹夜は当たり前という世界です。「ブラック企業」と言われても仕方がないでしょうね。

──企業は民主独裁型であることが望ましいのですか。

木谷 セクハラ・パワハラなどの不法行為を容認する真正ブラックの会社は論外です。しかし、経営として当然のことをやっているのに不当にもブラックのレッテルを張られている会社もあります。

 動員力を高めると、必然的に世の中でブラックと言われる会社になっていくんですよ。まず、完全に身分制をなくして、頑張ったら誰でも出世できるようにする。ユニクロもマッキンゼーも、学歴や年次に関係なく頑張ったら誰でもキャリアアップしてリーダーになれる仕組みになっています。会社の組織が身分制の世界になっていると、活力がどんどん失われていきます。

 そして、ある価値観や原理でみんなを束ね、一人ひとりの社員にとことん働いてもらう。日本企業も欧米のグローバル企業と同様に、価値観で束ねる方向にいかないと、どんどん世界から取り残されていきます。ちゃんと動機づけて社員にできる限り働いてもらうのは、なんら悪いことではありません。