1999年、都内の病院に勤務していた小児科医師の中原利郎先生(当時44歳)が、過労により自殺しました。この7月8日、最高裁において、その自殺をめぐる訴訟の和解が成立しました。

 中原先生は小児科診療の現場を守るために 退職した医師の仕事をカバーして月に6回以上、時には8回もの当直勤務をこなしていました。

 しかし、当時、医師の過労による自殺は労災であることすら認められませんでした。2002年、中原先生の妻、中原のり子さんは中原先生が勤務していた病院を相手に、東京地裁に損害賠償請求を提訴します。

 2007年にようやく労災認定が認められ、その後は、過重労働を避けるための配慮を怠った病院の責任を巡って裁判が続いていました(中原先生の自殺をめぐる裁判の経緯はこちらを参照ください)。

 今回の和解は、「医師不足や医師の過重負担を生じさせないことが国民の健康を守るために不可欠である」ことを相互に確認し、病院側が和解金700万円を支払うことにより成立したのでした。

 中原先生の自殺後も、過労によって心身の健康を害する医師は少なくありません。実質36時間連続業務となる当直勤務や、過労死基準を超える労働時間が解消されている病院は、ほとんどないのが現状です(関連コラム「はっきり言おう、医師の労働環境は劣悪だ」もお読みください)。

 そんな状況の中、この一連の裁判が、「良い医療を提供するためには、医師自身の健康を守ることが大切である」という共通認識を持つ始まりとなったことは間違いないでしょう。その意味では、画期的な和解だと言えるのです。

 とはいえ、中原先生の悲劇を繰り返さないためにはまだまだクリアしなければならない課題が山積みなのです。

労働基準署が認可する違法な時間外労働

 奈良県に、奈良病院と五條病院という2つの県立病院があります。これらの病院で行われていた当直勤務が違法な時間外労働に当たる上に、医師に割り増し賃金を支払っていなかったとして、7月初め、奈良労働基準監督署が奈良県を労働基準法違反容疑で奈良地検に書類送検しました。

 病院が、法定労働時間を超えて時間外や休日に医師を勤務させた場合、労使協定を結ばない限り、労働基準法違反になります。奈良県はこの協定を結んでいなかったとして書類送検されたのです。