本来ならASKAの話題は1回にしてSTAP細胞関連で発表されたおかしな文書など従前のテーマに戻ろうと思っていたのですが、前回のコラムに対して看過できないSNSの書き込みを目にしました。
「全然違う。薬物を使えば普通に良い作品が生まれます。それはドーピングすれば足が速くなるのと同じ。この人は音楽のことは分かっていても芸術のことは分かっていないようですね」
これ典型的な、売人が伸び悩むアーチストを騙す手口で、こんなものがネット上に出てしまうのなら、徹底して滅菌消毒しておかねばと考えを変え、編集部と相談して取り急ぎこの原稿を準備しました。
もちろん私も30年来芸術音楽の仕事をしていますので、様々なケースを身近で知っています。例えば生前いくつか接点があり、没後に遺作「OCEAN」の初演に私も参加した米国のアーチスト、ジョン・ケージは、摂取すると特異な意識状態になるキノコ類にいろいろな意味で詳しい人でした。
あるいはオウム真理教の洗脳に各種の薬物が濫用されたこと、それらと私がどのように向き合ってきたかも知る人は知るとおりと思いますが、ここでは上の、ほとんど売人同様の「薬物のススメ」をクリアに否定することから始めたいと思います。
薬物で普通に良い作品ができてたまるか!
例えば今ここに、小学生の子供がいるとしましょう。この子に薬物を与えたら、突然「良い作品」が「普通に」生み出せるようになるか・・・。あり得ないことが明白でしょう。各種ドーピングと同様、資質のない人に薬物を摂取させても、ジャンキーを1人作るだけで、単なる犯罪です。そういうことを上の文言は教唆しています。これはダメだ。
次に、では、どういう専門でもいい、デビューしてはいるけれどパッとしない人に薬物を与えたら、突然素晴らしいモノができるでしょうか・・・?
これは微妙なんですね。もちろん客観的にはできないですよ。そんな便利なことがあったら誰も苦労しないでしょう。ところが主観的には・・・つまり摂取している本人とか、それを周りで見聞きしてる連中がドラッグ漬けだったら「これは素晴らしい!」とかいうことに普通になってしまう。
1990年代以降のテクノミュージックでは、残念なことですがセックス&ドラッグが蔓延し、それを含むカルチャーとして社会を汚染した面が否めません。
「題名のない音楽会」を辞め、芸能界のいろいろと縁を切って最初は慶應義塾大学で音楽を教えるようになった1999年、学生たちが「テクノのイベント(レイヴ)をしたいのだけどみんな未成年で、先生、店を借りる保証人になってくれませんか?」と相談を受けたことがあります。