大豆は長い間、日本人に栄養をもたらす作物であり続けた。いまも、大豆を使った食材は、納豆、醤油、味噌、もやし、枝豆と、おなじ作物から作られたと思えないくらい色とりどり、食卓に並んでいる。

 大豆由来の食べ物のなかでも、とりわけ万能的と言えるのが「豆腐」だろう。栄養価が高いのはもちろん、醤油、味噌汁、鍋、中華料理と、なににでも合う。色は白くて、食感は柔らか、そして風味はたんぱく。自己主張しすぎないこれらの要素が逆に豆腐の特徴にもなり、様々な食材との相性の良さを生み出している。

 今回は、「豆腐」をテーマに、その歴史と現状を見ていきたい。前篇では、大陸から伝わった豆腐がどのように日本で発展してきたかを追っていく。後篇では、豆腐をめぐる製法技術の進化などを、日本豆腐協会専務理事を務める町田秀信氏に聞くことにする。

諸説ある大陸での誕生経緯

日本の食卓になくてはならない食べ物「豆腐」

 豆腐の原料である大豆は、2000年前の紀元前後には日本に伝えられていたとされる。日本で豆腐が作られる下地はあったわけだ。

 そこに、豆腐の作り方が伝来したのは奈良時代から平安時代ごろ。遣唐使として唐に渡った僧や学者が日本に製法を持ち帰ったという説が有力だ。

 では、大もとの中国ではどのように豆腐が誕生したのか。これには、大きく2つの説がある。紀元前の前漢時代に生まれたという説と、数百年後の唐の時代以降に生まれたという説だ。