いわゆる「田舎」で総称される都会の外の地域において、若者が都会へ流出することが社会問題となっています。しかし一方、都会にいながら田舎へ流出しない都会の若者の意識はあまり取り上げられません。

 震災をきっかけに、若者が都会から田舎へ、田舎から都会へと流動するようになりました。これは震災における「正の遺産」の1つなのかもしれません。

浜通りの高校生の変化

 「うちの息子が、『俺は福島で生まれ育ったから、福島県以外の大学で学んでから戻ってくることに意義がある』って言っているんだよ」

 先日お話ししたある医師から聞いたお話です。親御さんとしては頭の痛い話かもしれませんが、高校生でありながらこのような視野を持てる息子さんが素晴らしいと思います。

 昨年のことになりますが、相馬高校から12年ぶりに現役東京大学合格者が出ました。震災という事件を機に相双地区へ入るようになった塾講師の先生方や東大教授、進学校生徒たちの結んだご縁に依るものが大きかったようです。

 一流の教育を受けたから、という見方もありますが、一番大きかった変化は意識の持ち方だと思います。

 この学生さんの学力は元々高かったけれども、進学先は東北大学しか考えていなかった、と言います。学問を修めることだけを考えれば、東北大学でもよかったのかもしれません。しかしこのニュースの大事な点は、1人の学生が有名大学に入ったという事実ではなく、関東へ出るという選択肢を考えた、その一事に尽きると思います。

 相馬高校だけを見ても、関東の大学の受験を考える高校生は、徐々に増えているそうです。先日剣道のご縁で知り合ったある学生さんも、関東へ進学する1人です。

 「お母さんの経営する幼稚園を手伝いたい」という思いから担任の先生と一緒にインターネットを検索し、神奈川県の大学の子ども未来学科という学科への進学を決意、見事に合格しました。インターネット社会の影響もありますが、学ぶために外へ出る学生が増えている証拠だと思います。

 人口減に悩む相双地区の人々から見れば、これは憂慮すべき事態かもしれません。県外への大学受験者が増えれば、過疎化はさらに進むのではないか。そういう意見も聞かれます。