今春、福島県立相馬高等学校を卒業した稲村建(たける)君が、現役で東京大学に合格した。12年ぶりの快挙だ。相馬高校教員はもとより、相双地区の教育関係者、そして彼に関わったすべての人たちが喜んでいる。

震災で日本全国との交流が進んだ賜物

 なぜ、稲村君は東大に合格できたのか。一言で表現すれば、東日本大震災をきっかけに、外部と交流が進んだからだ。

 例えば、震災後、相馬高校には、代々木ゼミナールの藤井健志氏(現代文講師)、安藤勝美氏(英語講師)などの一流の予備校講師が訪れ、受験指導を行うようになった。今年度で3年目に入る。震災後、短期的に被災地を訪れる教育関係者はいたが、我々が求めていたのは、継続的な支援だった。

 また、松井彰彦・東京大学大学院経済学研究科教授や、そのゼミ生も相馬高校を継続的に訪問してくれている。さらに、兵庫県神戸市の私立灘中学・高校とも交流が始まった。同年代の意識の高い高校生との交流が、学習意識や意欲を高めることに大きく貢献した。

 今春の私立灘中学・高校の文化祭には、相馬高校の生徒が招待され、震災について意見交換することになっている。長期的な交流が両校の信頼関係を醸成しつつある。

 相馬市の南に位置する南相馬市でも状況は同じだ。その中心は、地元で学習塾を経営する番場さち子氏である。震災後、他県から医療支援のために南相馬市に移ってきた医師や医療スタッフに協力を依頼し、地元の子供たちを対象とした講演会、学習相談会、お食事会、小旅行等を繰り返している。

 東日本大震災・原発事故によって、相双地区は大きなダメージを受けた。復興は長期戦であり、その中核を担うのは子供たちの世代だ。復興の成否は、人材育成にかかっていると言っても過言ではない。

 ところが、福島県の教育レベルは、お世辞にも高いとは言えない。例えば、若年人口当たりの東大進学率は全国最低ランクだし(図1)、また、東北大学進学率でも、東北地方最低だ(図2=次ページ)。

図1:2013年東大合格者数。数字は18歳人口1万人当たり
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