北海道夕張市立診療所の村上智彦理事長による「なぜ私は救急患者の受け入れを拒否したのか」という記事が、6月7日にJBpressに掲載されました。

 この記事を読んで、私がまず感じたことは、「またか」という思いでした。

 2009年10月にも、9月末に首つり自殺した夕張市内の中学生の救急搬送を夕張医療センターが断ったと報道され、耳目を集めたからです。

 その時、藤倉肇市長は定例記者会見で、「二度とこうした事態が起きないよう、市内の救急医療体制の改善を図りたい」と発言していました。それが、改善されないばかりか、また自殺者が出たのです。しかも2010年5月上旬にも自殺者が救急搬送されたばかりというのですから、驚くしかありません。

 北海道の2008年の自殺者数は人口10万人当たり31.2人です(全国第9位。全国平均は10万人に対して25.3人)。つまり、1年間で人口1万人当たり3人が自殺する計算になります。夕張市は人口が約1万1100人。たった半年間で3人の自殺者が出たということは、自殺率が全道の2倍ということになります。

 常識で考えると、市がやるべきことは、まず自殺者対策であり、次に救急医療体制の改善です。それなのに真っ先にやったことは、記者会見で「市内の50代男性自殺者の救急受け入れを断っていた」と発表したことでした。

 しかも数時間後に市長、副市長、総務部長はじめ5人が事実関係の確認、抗議に「夕張希望の杜」に押し掛けたというのですから、恥の上塗りとしか受け取りようがありません。

市はいつまで「前例がない」を繰り返すのか

 整理しておきましょう。村上医師は反論記事で、自殺は病気ではなく、やるべきことはうつ病対策等の行政の取り組みが大切だと主張しています。

 3人の自殺者がどのような理由で自死を選んだのか詳細は分かりませんが、一般論としては、村上医師が言うようにまずうつ病への対策をすべきだったのであり、同時に将来を含めて日々の生活不安を減らすこと、希望の持てる町づくりをすることでしょう。

 次に、救急医療体制の改善ですが、村上医師は2年ほど前に、市内に急病センターを1カ所設け、初期救急患者(軽症の救急患者)についてはそこで医師が交代制で診るようにしてはどうかと具体案を出しています。

 これに対して、市は「前例がない」「予算がない」と突っぱねたそうです。絵に描いたような「お役所仕事」としか言いようがありません。