6月2日、北海道・夕張の病院で起きたある出来事が全国に報道された。
5月に、夕張市内の男性が首つり自殺を図って心肺停止状態となった。その男性を北海道夕張市立診療所(夕張医療センター)に救急搬送しようとしたところ、理事長の村上智彦医師が受け入れを拒否し、男性患者が死亡した、というのだ。
報道によれば、同センターは2009年秋にも心肺停止状態の自殺者の受け入れを断ったことがあり、夕張市の藤倉肇市長が今回の事態に対して「誠に遺憾」と発言したという。
報道は、センターが救急搬送を断ったことを糾弾する論調である。
しかし、そうした報道から見えてこないことは、あまりにも多い。
村上智彦医師は財政破綻した夕張に単身で飛び込み、地域医療の維持と再生のために、まさに孤軍奮闘している人物である。
そんな村上医師がなぜ救急患者の搬送受け入れを断ったのか。そもそもセンターは本当に救急搬送を受け入れるべきだったのだろうか。
以下は、村上医師からJBpressに寄せられた反論の手記である。

 2007年、夕張市の財政破綻に伴い、夕張市総合病院が経営破綻しました。

 夕張市総合病院の応援医として働いていた私は医療法人財団「夕張希望の杜」を立ち上げて、病院の経営再建と地域医療の継続を図ることにしました。

 破綻した夕張市立総合病院の建物を借りて、2007年4月に公設民営方式の指定管理者として夕張医療センターの運営を開始したのです。

 指定管理の条件は、夕張市からの資金援助を一切受けないこと、そして19床の有床診療所と40床の老人保健施設を運営することでした。

 夕張医療センターの本来の仕事は、在宅支援診療所として、120軒の在宅患者さんや40床の老人保健施設、かかりつけの患者さん、委託されている110床の特別養護老人ホームとグループホームを、24時間体制で電話対応も含めてケアすることです。

 救急医療や在宅医療等は、センターの本来の仕事には全く入っていないのです。

この3年間、ボランティアで救急を受け入れてきた

 「地域医療」というと、いかに救急患者の受け入れ体制を確保するかがよく問題になります。しかし、24時間365日の体制で救急を支えるためには、最低でも7人の医師が必要です。また、看護師や技師、医療機器の維持管理を考えますと、対応する範囲にもよりますが、最低でも3億円以上はかかります。そして、患者を受け入れる病院は「救急指定病院」である必要があります。

 ところが、夕張市の救急の予算は年間120万円しかありません。その予算でさえ医師会の事務職員の人件費として消えていますので、実質「ゼロ」です(ただし、予算がないという割には、市は財政再生計画で市営住宅の建て替えに数十億の予算を計上しています。決して救急の予算がなかったわけではなく、優先順位が低かっただけの話です)。

 また、夕張医療センターは「救急指定病院」ではありません。おまけに救急医療は不採算部門です。