ある現場での出来事。

 経営陣の後ろ盾の下、鳴り物入りの営業強化のプロジェクトが立ち上がった。大手コンサルティングファームが入り、キックオフ以来、幹部も巻き込んでミーティングが繰り返された。

 大がかりなプロジェクトが行われていることは社内の誰もが知っている。しかし、「あのプロジェクトの中身は何ですか?」と聞かれても答えられる社員はほとんどいない。みんな「何をやっているか分からない」と口を揃える。よくある話である。

 そのまま数カ月が経ち、そろそろ何かアナウンスがあるかと思いきや、何も出てこない。相変わらず「何をしたらどんな効果があるか」を試算したり、関係者へのヒアリングを繰り返しており、パワーポイントのドキュメントだけが何回も更新されているようだ。

営業の現場から次々に寄せられる要望

 一方、同じ頃、営業の現場のSFA(Sales Force Automation: 営業支援)の仕組みを運用している営業企画部門では、現場からの要請を受けて随時リポートを作成したりカスタマイズをしたりする業務を行っていた。

 この業務はとにかくスピード勝負。トライアルで導入しているクラウドのシステムを営業の現場に使ってもらっているが、現場からは「もっとこういう機能が欲しい」「こういうデータは見られないか」とひっきりなしに要望が上がってくる。

 それを受けて、どんな内容の要望かを判断して、他のユーザーにあまり影響のないものはほぼ即日対応。影響のありそうなものは、他ユーザー部門とも調整をして、落とし所を提案して実現をする。そして、どこをどう変えたかを念のため記録している。

 この業務を行っているのは、外部のシステム会社から来ている若手エンジニアだ。コミュニケーション能力が高く、現場からの評判はかなり良い。

 現場から寄せられる要望は非常に数が多い。おそらく、今の市場環境に即して現場のニーズが頻繁に変わるのだろう。営業企画の担当者としては、現場で売ってもらうのが仕事なので、多少のわがままも仕事だと思って聞き入れて対応を続けている。