英エコノミスト・グループは、「ベルウェザー・シリーズ・ジャパン──アジア太平洋における金融の未来像」と題するカンファレンスを実施した。激変する世界の金融とアジアにおける未来像が熱心に議論された(5月19日開催)。
これまで、その中から興味深いテーマを3つ選んで紹介してきた。
第1回は、元財務大臣で、たちあがれ日本共同代表の与謝野馨氏のインタビューをお送りした。第2回はアジアの金融アーキテクチャーで日本が占める位置について、公的金融機関の立場から、日本政策金融公庫副総裁で国際協力銀行経営責任者でもある渡辺博史氏の基調講演をお届けした。
3回目には、民間金融機関の立場から、三菱UFJフィナンシャル・グループの玉越良介会長と、三井住友フィナンシャルグループの北山禎介社長の講演と、日本政策金融公庫の渡辺副総裁を交えた3人によるディスカッションの様子もお送りした。
最終回となる4回目の今回は、ベルウェザー・シリーズ・ジャパンの前にやはり東京で開催された「第5回日本CFO円卓会議 - CFOのポスト・リセッション戦略」(2010年3月10日 フォーシーズンズホテル椿山荘 東京)の中から、とりわけ興味深かった講演の要旨をお送りする。
「不況脱出に向けた日本の挑戦」と題して、JPモルガン証券の菅野雅明経済調査部長・チーフエコノミスト兼マネジング・ディレクター、国際基督教大学の八代尚宏・教養学部教授、日本銀行の須田美矢子・政策委員会審議委員の3人が行った講演である。
ギリシャとは異なる日本の財政赤字問題
菅野 日本は大きな財政赤字を抱えています。しかし、ギリシャとは異なり、それが即、国債金利の上昇となって表れてはいません。今でも10年国債の利回りは1.3%前後と、非常に低い水準です。
そういう意味で市場からの圧力がない。むしろ市場が政府をスポイルしている形になっています。国債の保有者の大半は日本の機関投資家ですから、日本のこの状態はしばらく続くと思います。
マクロ的に見ると次の3つの条件が続く限り、この国債の問題は顕現化しません。言い換えれば、国債のバブルは続くと思います。なぜバブルかというと、国債の信用リスクが過小評価されているからです。別の言葉で言うと、価格が高すぎます。
3つの条件の1つは、国内貯蓄です。これが十分にある限り、結局国内でお金がぐるぐる回るだけなので、海外の格付け機関が日本の国債をダウングレードしようとしまいと、あまり関係ありません。
2番目が、日本の投資家が持っているホームバイアス。すなわち海外の資産ではなく、円資産を持つ傾向です。今は銀行にかなり預金が入り、銀行は貸し出しチャンスがないので国債を買っている。銀行は基本的に海外に投資しないので、制度的にもホームバイアスが担保されています。
3番目はデフレです。デフレが続く限り、長期金利でも実質金利が高いという言い方もできますし、あるいはデフレが続くとなかなかリスク許容度が上がってこないので、結局お金がまた国債に戻ってしまいます。
問題はこの状態がいつまで続くかということです。このままでは政府の赤字がどんどん拡大し、家計や企業など民間の貯蓄は減っていきます。