エコノミスト・カンファレンス「ベルウェザー・シリーズ 日本~成長の糧として:アジア金融の挑戦」の事後リポート最終回は、中曽宏・日本銀行副総裁を迎えた『日本銀行との基調対談』をお送りする。聞き手はエコノミスト誌アジア経済エディターのサイモン・コックス氏(5月30日開催)。

市場対話重視、オペの弾力運用スタート

コックス カンファレンスに先立って、日銀が2%のインフレターゲットを実現できるかどうか、インターネットでの世論調査を実施しました。「成功する」と答えた人は62%、「2%に到達しない」と答えた人が38%でした。

中曽 今日の議論を通じて「62%」という数字をさらに引き上げたいと思います。15年間に渡って経験してきたデフレに終止符を打つことが、日銀にとっても、日本経済にとっても課題です。そういう認識のもと、日銀では4月に「量的・質的金融緩和」を導入しました。これは、従来の漸進的なアプローチとは異なるものです。

日本銀行副総裁の中曽宏氏(撮影:前田せいめい、以下同)

 日本経済は今年半ばには緩やかな回復経路に戻り、生産・所得・支出の好循環が維持されるもとで、基調としては0.5%程度の潜在成長率を上回る成長を続けると予想しています。

 こうした成長見通しのもとで、需給ギャップは、2015年度までの見通し期間の後半には、足元のマイナスから、2%程度までプラス幅が拡大するとみています。物価については、2015年度までの見通し期間の後半にかけて、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いと考えています。

 その過程で2つの課題があります。まず、債券市場については、マーケット参加者との対話を重視し、市場のダイナミクスを理解することがオペレーション(公開市場操作)成功の鍵となります。

 先ほど(5月30日)、長期国債の買い入れオペレーションの運営の見直しを発表しました。買い入れ額は毎月7兆円強程度を基本としつつ、マーケットの状況を見ながら、オペの頻度を弾力的に従来よりも増やして実施できるようにします。この措置によって、過度な金利上昇やボラティリティを抑えることができ、安定した長期金利の形成に繋がると考えています。