シリア問題をめぐって、同国が保有する化学兵器を国際管理下に置き、廃棄することでアメリカとロシアが合意した。これには国連安保常任理事国のすべてが賛同の意向を表明しているため、まもなく国連安保理決議もなされることになる。
これによってアメリカによる武力攻撃が当面回避されることになった。まだまだ予断は許さないが、ともかくも平和的な解決の方向が示されたことは、結構なことである。
厭戦気分に勝てなかったオバマ
周知のようにオバマ大統領は、武力攻撃に前のめりになっていた。だが踏み込めなかった。
いちばんの見誤りは、国民の厭戦気分である。オバマ自身、大統領になる際、アフガニスタンとイラクの2つの戦争を終わらせることを公約にしていた。テロとの戦いを旗印としたブッシュ政権による2つの戦争は、アフガニスタン、イラクの人々だけでなく、アメリカの若者をもアフガンでは2000人以上、イラクでは4000人以上犠牲にしてきた。心身に深い傷を負った若者はこの10倍以上に上る。
アメリカ同時多発テロ事件の首謀者とされるオサマ・ビンラディンは殺害したが、テロの根を根絶できたわけではない。イラク戦争の口実となった大量破壊兵器は存在しなかった。シリア攻撃にアメリカ国民の支持が1桁台、あるいは十数%しかなく、議会も消極的だったこともうなずける。
イギリスのキャメロン首相も、オバマ政権に同調して軍事介入に前向きだったが、議会で否決され、断念せざるを得なくなっていた。
アメリカが武力攻撃を開始すれば、シリアのアサド政権は当然反撃する。シリアにはロシアから輸入した地対空ミサイルなどもあり、陸海空軍だけではなく、航空攻撃の阻止に特化した「防空軍」も存在している。要するに激しい戦争になるということである。
国内世論も、国際世論も味方につけずに戦争を開始するなどという決断が、簡単にできるわけがないのである。
化学兵器問題を武力攻撃で解決できるのか
オバマ大統領は、シリア攻撃の理由として「化学兵器の使用は、米国の国益に影響を与える」と述べて、国民や議会の支持を求めた。だがニュースでも市民の声が報道されていたが、「なぜアメリカの国益に関係があるんだ」という強い疑念が表明されていた。