シリアのアサド政権による化学兵器使用に対する懲罰的ミサイル攻撃を実施しようとしていたオバマ大統領は、国際社会からの支持を思ったように得ることができず、国内世論も反対が賛成を大きく上回っていたため、連邦議会による軍事攻撃賛成決議を得て、地中海で待機中の米海軍部隊にゴーサインを出そうと考えた。

 ところが、上院外交委員会が決議案を採択したものの、上院や下院での決議案採決以前にロシア政府による「シリア化学兵器廃棄案」が提示されたために、連邦議会での決議も軍事攻撃も延期されてしまった。

 こうした「大統領が軍事力行使発令に先立って連邦議会に事前承認を求める」という前例は、アメリカの敵勢力あるいは敵性国家にとっては歓迎すべき出来事であると言える。

 とりわけ、これまでアメリカが“仕切って”きた海洋への侵攻戦略を実施中の中国にとっては、まさに大歓迎の出来事である。

アメリカ連邦議会の承認は法的には必要なかった

 そもそもオバマ大統領は、アサド政権に対する懲罰的軍事行動を実施するのに先立って、アメリカ連邦議会の承認を法的に必要としていたわけではなかった。

 1973年に連邦議会によって採択された「大統領の戦争権限に関する決議」によると、アメリカ大統領は、アメリカの国益に関わる緊急事態に対処するために必要な60日以内の軍事行動を、連邦議会による宣戦布告や事前の承認なしに命じることができる。ただし、軍事行動発令後48時間以内に連邦議会に報告する義務がある。そして、60日以内に連邦議会の承認が得られなかった場合は軍事行動の延長はできない。ただし、撤収のために30日以内の追加期間を設けることはできる。

 要するに「60日以内の軍事作戦」ならば、アメリカ大統領は連邦議会の承認なしにアメリカ軍を動かすことができるのである。これに対応して、アメリカの先鋒部隊として常に緊急出動に備えている海兵隊は、60日間までの作戦行動ならば陸軍などの増援なしに行動できるような態勢を維持している。

 したがって、今回のアサド政権に対する懲罰的長距離巡航ミサイル攻撃も、連邦議会の決議を事前に求める必要は法的には存在しなかった。しかし、国内世論での反対意見が大きく賛成を上回っていたために、あえて連邦議会の事前承認を得ようとしたのであった。

 今回のオバマ大統領の判断によって、今後、アメリカ自身に対する直接的軍事攻撃への反撃以外の軍事行動(第三国での内戦への介入や、第三国間の紛争に対する軍事介入)をアメリカ大統領が発動するにあたって、国内世論の賛同が低調な場合には、連邦議会の事前承認を求めて武力発動に対する“お墨付き”を得ようとする可能性が極めて大きくなった。