先週、アメリカ・バージニア州フォートベルヴォア陸軍基地の将校クラブで、米陸軍、米海兵隊、米特殊作戦軍が主催する「戦略的陸上戦力」に関するカンファレンスが研究者なども招いて開かれた。

 この会合は、陸軍が中心となって呼びかけられた。陸軍は、自分たちが打ち出そうとしている「戦略的陸上戦力」という新しいコンセプトを、陸上での戦闘に関わっている海兵隊と特殊作戦軍と共に盛り上げて、海軍と空軍を利する「エアシーバトル」(AirSea Battle)に対抗して陸軍の存在意義を高めようと考えた。なぜならば、強制財政削減の直撃を受けたアメリカ全軍の中でも、存在価値まで問われだしたのが極めて巨大な組織(予備役・州兵を加えると兵力およそ110万5000名)である米陸軍──“大”陸軍──だからである。

存在理由を問われている米陸軍の思惑

 「戦略的陸上戦力」とは、いまだに具体的な戦略を伴った構想が確立されているとは言えないが、「イラクやアフガニスタンでの10年以上にわたる戦争はなぜ失敗に終わったのか?」という反省から引き出された教訓をもとに“大”陸軍を生まれ変わらせようとする構想である。

 すなわち、これからアメリカが直面するであろう軍事行動には、敵の軍事目標を殲滅する「太い棍棒の領域」だけではなく、現地の言葉はもちろん文化や習慣、それに現地の人々の考え方や感情などを理解し現地の社会に溶けこみ協働する「人間的領域」に対処する備えが必要である。「これら2つの領域での作戦を同時にこなしていくためには、やはり大規模な陸軍が必要なのである」というのが、米陸軍が言わんとしたいところである。

 そこで、イラクやアフガニスタンの人々の間に入り込み、現地の言葉で会話を交わし、現地の人々の考え方を理解し、現地の人々が何を欲しているのかを把握したうえで様々な作戦を実施してきた「人間的領域」のエキスパートである特殊作戦軍と、イラクやアフガニスタンで陸軍部隊の“戦友”として陸上戦闘に従事してきた海兵隊を“仲間”に加えて、「戦略的陸上戦力」を表看板に掲げて、陸軍の存在価値を政府や連邦議会、そしてアメリカ社会に認識させようというのである。

陸軍と組む必要がない海兵隊

 特殊作戦軍は、自らの“おはこ”である「人間的領域」への対処を強調する「戦略的陸上戦力」の考え方には当然のことながら乗り気である。しかしながら海兵隊があまり陸軍に協力的でないのは明らかである。なぜならば、フォートベルヴォアでの会議には海兵隊からの出席者は少なく、発言も極めて控えめであったからである(ちなみに、この種の戦略的テーマに関する会議では、通常最も雄弁を振るうのは海兵隊というのが定評になっている)。