香ばしい、食欲をそそる匂い。下はパリッと、上はもっちりとした皮。かぶりつけば、肉と野菜のうまみがじわっと沁み出る。ひとたびその味と姿を思い浮かべてしまうと、どうにも食べたくなってくる。焼き餃子には、食欲を猛烈に刺激する魅力がある、と常々思う。

 だが、世界を見渡してみると、焼き餃子というのはどうやら餃子の中では多数派ではないらしい。餃子には「蒸し餃子」「水餃子」「焼き餃子」の3種類があるが、蒸し餃子と水餃子の方が焼き餃子よりも広く食されている。

 モンゴルには、「バンシ」という水餃子、「ボーズ」という蒸し餃子がある。どちらも羊の肉を使い、岩塩を使って餡にしっかり味付けをする。

 ブータンやネパールには「モモ」と呼ばれる蒸し餃子がある。ブータンの「モモ」は、豚肉を使い、ピリ辛のタレをつけて食べるもの。ネパールの「モモ」は、羊や水牛を米粉の皮で包んだもので、トマトとヨーグルト、スパイスを煮詰めたタレで食べる。

 ロシアには「ペリメニ」という水餃子がある。サワークリームやバターをかけて食べる。トルコの「マントゥ」は、羊や牛肉を使った水餃子だ。こちらはニンニク入りのヨーグルトソースをかけて食べる。

焼き餃子。中華料理チェーン店では他メニューよりかなり安く食べられる。

 韓国には、日本と同じように焼き餃子、蒸し餃子、水餃子の3種類があるが、主流は牛骨をベースにしたスープ餃子「マンドゥクク」だ。

 そもそも、餃子発祥の地である中国でも、焼き餃子はメジャーではない。中国全土では蒸し餃子を食べることが多く、また北京以北では水餃子が主流だ。

 なぜ、日本だけが餃子と言えば焼き餃子を指すようになったのか。今回は日本人に特に好まれ、独自の発展を遂げた焼き餃子の源流を追ってみよう。

餃子を初めて食べた日本人は誰もが知る“あの人”

 餃子の日本伝来は意外に古く、江戸時代までさかのぼる。