重複障害を持つ子供の家族や先生たちの苦闘を描いた山本おさむ氏のコミック『どんぐりの家』がすさまじい傑作であることに異論を挟む人はいないでしょう。この作品に、こんなくだりがあります。

 40年ほど前、ろうの重複障害を持つ子供たちの教育を、政府も地方自治体も認めていませんでした。知的障害や聴覚障害が重なっていることが多く、ちょっとやそっとのことでは教育ができないというのがその理由で、事実上いないことにされていたわけです。よって、予算もつかなければ担当もいません。

 重複障害児を見捨てる教育政策に反旗をひるがえす現場の教師たちがいました。しかし彼らには、日本の教育政策を変えられるほどの力はありません。そこで彼らは、「不正」を行って重複障害児教育の道を開きます。さて、どんな方法だったのでしょうか?

共和制に移行したが王政の外観を残したローマ人

 <国の政体を改革しようとする人は、改革がみんなに受け入れられて、またみんなが満足してこれを維持していくことを望むように、せめてこれまでの制度の外見だけでも残しておく必要がある。>
(『ディスコルシ 「ローマ史」論』、ニッコロ・マキァヴェッリ著、永井三明訳、ちくま学芸文庫)

 

 ローマは元々王政から始まりました。王はローマ人の話し合いで選ばれ、場合によっては外国から招聘されたこともあります。しかし最後の王であるタルクィニウス・スペルブスは、先王を殺して自分が王になった人物でした。

 そうした経緯もあって、タルクィニウス王は暴政をほしいままにしていました。これに対する不満がローマに鬱積していたところに、タルクィニウスの息子のセクストゥスがルクレティアという女性を手込めにする事件が発生します。

 貞淑を汚されたルクレティアが自害したことが契機となり、ローマ人の不満が爆発し、タルクィニウス王が追放されます。以来、ローマは王を持たないことを国是とする共和制に移行します。