1997年の冬、私はある大手パソコン販売店の開店セールに並んでいました。10時の開店から2時間以上経たないと入れない混雑で、やっとこさ入ると、発売されてまもないソニーのパソコン「VAIO」の1号機が並んでいました。
販売応援に派遣されたソニーの社員だったのでしょう。VAIOのそばに立っている、法被(はっぴ)ではなくスーツを着た販売員の方に質問しました。
「どうして『Mac OS』を積まなかったんですか?」
販売員の方は「またか」と言いたげな苦笑いをして「今日、同じことを5人のお客様から言われました」とのこと。私の期待していた答えは聞けませんでした。
私が期待していたのは、「積みたかったんですけど、アップルがライセンスを出してくれないんですよ」といった答えです。この年の8月にアップルはマッキントッシュ互換機路線を撤回。以後、他社にライセンスを出さない(互換機を消滅させる)と発表していました。
ソニーがパソコンを出すなら、搭載するOSはWindowsよりMac OSがふさわしい。そう考えたのは私だけではなかったようです。
Mac OS搭載機を出そうとしたけれどライセンスが取れず、仕方なくWindows搭載になったなら納得はします。ところが、販売員さんから聞くところによると、ソニーは最初からMac OSの搭載を考えていないようでした。基本「長いものには巻かれろ」姿勢でのWindows搭載だったようです。
ちなみにアップルがマッキントッシュ互換機ライセンスを他社に出し始めたとき、日本メーカー初の製品は95年、パイオニアから発売されました。高品質のスピーカーを内蔵し、オーディオビジュアルに特化した、ソニーのマークが入っていても違和感を感じない商品でした。
今にして思えば、ソニーの凋落はこの頃には始まっていたのだなと思います。
スパルタ、ヴェネツィア、ローマの内紛を防ぐ仕組み
<全てのこの世の出来事は、一つの具合の悪いことを除くと、必ずと言ってよいほど、別の都合の悪いことが生じて来るものだ。>
(『ディスコルシ 「ローマ史」論』、ニッコロ・マキァヴェッリ著、永井三明訳、ちくま学芸文庫)