マグロの絶滅を防ぐ「ノアの方舟」作戦

「代理親魚」が魚の危機を救う(後篇)

2012.02.24(Fri) 漆原 次郎
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 絶滅した種を取り戻そうとしても、取り戻すことはできない。もちろん、これは魚にも言えることだ。

 前篇では、日本人が長く関わってきた魚たちの危機を伝えた。川は護岸化され、海では乱獲が進む。個体数が急減している魚は多い。特にサケ・マスやマグロなどの大型魚への影響は深刻だ。

 魚を絶滅させないためにはどうすればよいか。東京海洋大学の吉崎悟朗准教授が見出した解は、生殖細胞、つまり卵・精子の保存だ。そしてこれを効率的に行うために編み出したのが「小型魚を“代理親魚”にし、大型魚の卵・精子をつくらせる」という方法だ。養殖技術で大型魚の子を孵(かえ)すには資金、労力、時間がかかる。そこで代わりに小型魚に大型魚の卵・精子をつくってもらうわけだ。

 ヤマメでニジマスの卵・精子をつくる。サバでマグロの卵・精子をつくる。こうした組み合わせで吉崎准教授は研究に取り組んできた。驚きの方法にも思える。だが、魚の生殖メカニズムを考え抜いた上での技術でもある。

 ニジマスは全長50センチほどの大型魚。養殖は可能だが、成魚を水槽で育てて孵化(ふか)までもっていくのは大変だ。雌が卵をつくるまでに3年、雄が精子をつくるまでに2年と、成熟までの期間も長い。

ヤマメ(上)とニジマス(下)

 一方、ヤマメは全長20センチほどの小型魚で飼育しやすい。成熟までの期間も雄で1年、雌で2年と短い。ヤマメが代理親魚となり、手間なく短時間でニジマスの卵・精子をつくってくれれば理想的だ。

 「日本の鮭・鱒を守りたい。本心として、そういう思いからこの研究を始めました」と、東京海洋大学海洋科学部の吉崎悟朗准教授は話す。

 ニジマスとヤマメは遺伝子的な距離も近い。とはいえ異種だ。生き物には、自分と異なるものが体に入ると退けようとする拒絶反応の仕組みがある。この拒絶の問題を解決するため、吉崎准教授は稚魚のヤマメを代理親魚に使うことを考えた。若い魚は拒絶反応を起こしにくいからだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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