特に、新体制で最高位の責任者となった現在69歳の李英鎬・総参謀長は、70~80代の長老がひしめく朝鮮人民軍上層部において、金正日の指名によって並み居る先達をゴボウ抜きしてトップに据えられた人物であり、軍全体を完全に掌握しているとは言えない。

 なお、金正日は晩年に、いわば世襲シフトの一環として、実質的な権力の仕組みを非公式に組み替えていて、公式な最高指導機関である「国防委員会」よりも、党の「中央軍事委員会」を重視してきた。正恩はその副委員長という肩書きで、後継者として名乗りを上げたという経緯がある。

 その党中央軍事委員会は、李英鎬・総参謀長が同じく副委員長に就任しているほか、委員には主に軍の実務責任者クラスが配置された。彼らは金正日によって“金正恩派”となることを命じられたようなものだ。

 同委員となった主な人物を列記すると、以下のような面々である。

崔富日・軍副総参謀長(軍指揮系統の事実上のナンバー2、大将)
金元弘・軍保衛司令部司令官(憲兵部門トップ、大将)
金英哲・軍偵察総局長(特殊工作部門のトップ、上将、韓国哨戒艦撃沈事件の指揮官と見られる)
鄭明道・海軍司令官(大将)
李炳鉄・空軍司令官(大将)
尹正麟・護衛司令官(大将)
チェ・ギョンソン 第11軍団長(特殊部隊指揮官、上将)
崔相旅・ミサイル指導局長(上将)

 また、党中枢からも金慶玉・組織指導部第1副部長や崔竜海・党書記が委員に任じられている。