前回、筆者が担当したコラムでは、日本企業が組織と戦略の劣化によって、「時間」という希少な経営資源をうまく生み出せなくなっている可能性について言及した。
今回は、日本企業の戦略の劣化、特に組織の意思決定の中核をなすミドルマネジャーの戦略目標とその劣化に注目して、日本企業の課題を検討してみたい。
「連結ピン」としてのミドルの役割
一般的に企業組織は、「トップ」「ミドル」「ロワー」という3つの階層からなるものと捉えることができる。かつては、情報のトップダウンもしくはボトムアップを迅速にするために、ミドルは不要な、削減すべき対象とされた。トップと現場(ロワー)の間に位置する中間層は、フラット化する組織において、なくてもいいという見方である。
しかし、単純にフラット化しただけでは、現実には問題は解決しない。中間層をなくした分だけトップの情報処理負荷が大きくなるからである。
ミドルに期待される本来の役割は、そのような消極的な存在ではない。むしろその役割は、トップとロワーをつなぐ「重要な連結ピン」としての積極的な役割である。
ミドルは、トップから受けた「長期的・戦略的な目標」をロワーに向けて具体化し、ロワーが追求すべき「短期的・業務的な目標」に落とし込む役割を担っている。また、ミドルは、ロワーによって提起された具体的な業務課題を一般化して、どのような長期的・戦略的課題の一部であるかを経営トップに対して提示する役割を担っているのである。
トップからロワーへ、あるいはロワーからトップへという上下の情報流を連結するミドルの役割に注目すると、ミドルがどのような戦略目標を掲げ、追求しているかについて検討することで、日本企業のイノベーション先導力の一端を明らかにできるはずである。
戦略目標は 「右手に算盤、左手にロマン」で
まず、あなたの会社(あるいは事業部)が掲げている戦略目標やその実現シナリオの中身を振り返ってみてほしい。
その中身は、論理や実現可能性が実行前に十分に詰められたものとなっているだろうか。単なる壮大な夢物語となっていないだろうか。
あるいは、緻密な論理で詰められてはいるものの、達成すべき将来像としての構想の小ささゆえに、その戦略を実行する人々にとって共感に乏しいものとなっていないだろうか。
共感を呼ぶような大きな(時として壮大な)夢や構想を提示し、他方でそこに至る具体的な実現シナリオを論理的に詰めていくことは、決して容易なことではない。というのも、不確実な状況下で、我々は事前に想定できる論理の緻密さや実現可能性を突き詰めることに注力しがちだからである。その結果、そこから生まれる夢や構想は、しばしば小さくまとまりすぎる。
反対に、最終的に描くべき絵の大きさに注力すると、その大きさや壮大さゆえに周囲の共感を呼びやすいが、そこに至る論理は緻密さを欠き、結果として実現可能性は小さくなるからである。