コロッケはじゃがいもが先か、クリームが先か

謎に包まれた日本のコロッケのルーツ

2011.12.09(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 クロケットの語源は諸説あるが、「(バリバリ、カリカリと)音を立ててかみ砕く」という動詞「クロケー(croquer)」に、小さいものを意味する語尾がついたというのが有力だ。クロケットは、衣をつけて油で揚げ、パリパリと音を立てて食べる小さい丸いものを指している。

 コロッケの起源について書かれているものを読むとたいてい、フランスのクロケットは肉や魚、野菜などの材料とベシャメルソース(ホワイトソースのこと)を和え、小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて揚げたものであり、日本の「じゃがいもコロッケ」とは異なる、と書かれている。日本で言うところの「クリームコロッケ」が本来の姿で、じゃがいもを使ったコロッケは日本特有のアレンジだという。

 ふむふむ。ならば、いつからじゃがいもを使うようになったのかを探れば、その起源をつかんだと言えるだろう。そう考えて古い料理書にあたってみたのだが、結果は意外だった。

 西洋料理が輸入された明治時代の早い段階で、すでにじゃがいもコロッケらしき料理が存在していたのである。

 1872(明治5)年刊行の『西洋料理指南』(敬学堂主人著)には、馬鈴薯(ジャガタライモ)について説明してある項に、「がんもどき」のような料理法があるとして、こう紹介されている。

 <大ナル馬鈴薯十箇ヲ研(す)リ 生ノ牛肉半斤ヲ細末ニシテ之ニ交ゼ 我ガ菓子ノ唐饅頭様ニ容(かたちづ)クリ 小菱粉(うどんこ)ヲ着セ第一衣トナシ 鶏卵黄ヲ着セテ第二衣トナシ 焙菱粉(ぱんこ)ヲ着セテ第三衣トナシテ 牛脂ヲ以テ煮ルナリ>

 まさにじゃがいもコロッケだ。

 その数年後、1879(明治12)年刊行の『西洋果菜調理法』(岡勇訳述)には、じゃがいもに塩を加えてよく練り、球形にしたものに小麦粉をつけ、溶き卵につけて火にあぶる、というコロッケもどきの料理が紹介されている。この2冊に共通しているのは、いずれも料理名が書かれていないことだ。

 コロッケという名前が初めて文献に登場するのは、1887(明治20)年に刊行された『日本西洋支那三風料理滋味之饗奏』(伴源平編)。「コロツケ製法」と題して、あぶった肉を小さく刻み、みじん切りにしたネギと、コショウ、潰したじゃがいもを混ぜ、適度に丸めて、油で揚げると書かれている。

 1888(明治21)年刊の『軽便西洋料理法指南』(マダーム・ブラン述、洋食庖人編)には、「コロツケ」として、挽き肉のみを使ったメンチコロッケと、じゃがいもを使ったコロッケの2種類が登場している。また、1893(明治26)年刊の高知県尋常中学校女子部による「割烹受業日誌」には「ころつけ」として、じゃがいもコロッケの記述がある。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。