今、最も大きな可能性を秘めた医療の1つは、間違いなく再生医療だろう。実用化にはまだ時間を必要とするが、病気や怪我で失われた組織や臓器を再生できる可能性があるのだ。これが実現すれば医療が激変するだけではなく、その先にはまるでSFのような世界が見えてくるかもしれない。
そうした再生医療の現状はどうなっているのか、そしてそこにはどんな可能性があるのか、慶應義塾大学医学部特任研究助教の八代嘉美氏に聞いた。『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』(平凡社新書)の著者でもある。
ES細胞って何?
八代嘉美(やしろ・よしみ)1976年愛知県生まれ。東京大学大学院医学系研究科博士課程終了。医学博士。現在、慶應義塾大学医学部特別研究助教。専門は幹細胞生物学、科学技術社会論。著者『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』(平凡社新書)は、大きな反響を呼んだ同氏へのインタビューを元に複数回にわたって再生医療について考えるが、1回目の今回は、再生医療を理解するための土台であるES細胞を中心に見ていこう。
人間の細胞は、たった1個の受精卵から始まる。それが細胞分裂を繰り返して様々な臓器や神経や皮膚や骨を作り、1つの生命体としての人間を形成する。
出来上がった臓器や皮膚や骨の細胞は、他の臓器の細胞になることはないが、受精卵はあらゆるものになる可能性を秘めている。
ES細胞は、この段階の細胞なのだ。具体的に言えば、受精直後、人間であれば受精後5日前後の受精卵の中の一部分の細胞を指す。
八代氏はこう説明する。
「受精卵をシュークリームに例えると、シュークリームの皮に相当する部分は栄養外胚葉と呼ばれ、子宮に着床するための部分です。中に入っているトロトロのクリームに相当するのは、内部細胞塊と呼ばれる部分で、ここは体のあらゆる部位を作ります」
「この内部細胞塊は、将来何になるかまだ決まっていない状態なので、可能性としては何にでもなることができます。ES細胞は、この部分の細胞です」
ES細胞を目的の細胞へと導く
内部細胞塊は、受精後、時間的な経過が進むにつれて、その部分が将来何になるかが徐々に決まっていく。三胚葉分化といって、外胚葉、内胚葉、中胚葉という3つの大まかな部分に分化する。
外胚葉は皮膚や神経などに、内胚葉は内臓などに、中胚葉は筋肉や骨などに分化し、それ以外にはなれない。従って、時間的に受精後5日前後のものしかES細胞になり得ない。
「ES細胞と呼べるためには大まかに2つの基準があります。1つは、三胚葉のどれにでも分化できること。2つ目は、半永久的にずっと培養し続けることができる、つまり無限に増やすことができることです」
では、ES細胞をどうやって目的とする細胞に分化させるのだろうか?
「一番よく用いられる方法は、培養液にサイトカインと呼ばれるタンパク質を入れるのです」
サイトカインとは、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達を行う。様々な種類があり、免疫治療の現場などでもよく用いられる。
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