日本料理には昔から「出汁(だし)」が欠かせない。昆布や鰹のうま味を生かした料理は、日本人の口にとても合う。手間を惜しまず、丁寧に出汁を取った料理は格別の味わいだ。
繊細なうま味を醸し出してくれる筆頭は、何といっても「かつおぶし」。
今ではほとんど見かけることはなくなってしまったが、昔はどこの家にも、長方形の箱に削り歯と引き出しのついた「かつおぶし削り器」があった。それを使って「おかか」を削るのは、料理に取りかかる前の儀式のようなものだった。
削り節やうまみ調味料の普及で、家庭ではあまり目にすることがなくなった「かつおぶし」。だが、今も伝統的な製法を頑なに守り、昔ながらの最高級かつおぶしを作っている産地がある。かつおぶし生産量日本一を誇る鹿児島県枕崎市だ。
枕崎市は、九州の南端、薩摩半島の南西部に位置した港町である。年間平均気温は18度と温暖で、かつおぶしの天日干しに適しており、鰹の身を煮るのに欠かせない良質な水や、身を燻すための樫やクヌギなどの木も豊富な土地だ。
枕崎における「かつおぶし」の生産量は年間約1万7000トン前後。実に全国の生産量の4割を占めている。その中で、製造工程が最長1年にも及ぶ、選ばれた「かつおぶし」がある。枕崎産のかつおぶしの中でたった3%しか生産されない、かつおぶしのエリート「本枯れ節」だ。
じっくりと燻して「荒節(あらぶし)」に
「本枯れ節」が出来上がるまでには、実に長い工程がある。
まず、地元漁港で水揚げされたかつおは、3枚に身卸しされる。そのかつおを金属製の籠に並べ、2時間前後90度以上の高温の湯の中で煮る。この煮熟(しゃじゅく)工程により、たんぱく質を完全に凝固させ、うま味成分を閉じ込めることができるという。
その後は一枚一枚手作業で、骨や余分な皮を丁寧に取り除く。
次に、整形(せいけい)。これは身が裂けていたり、欠けていたりする箇所に、熟練した職人が鰹のすり身をへらで塗りこみ、表面を滑らかにする作業。こうすることにより、美しく端麗な姿形になる。