欧州連合(EU)は2010年2月11日に臨時首脳会議を開き、財政悪化に直面するギリシャへの支援で合意した。
筆者は、2月上旬に欧州に出張し、英国とドイツで政策当局者、エコノミスト、ストラテジストらと意見交換した。まさに、ギリシャ財政危機への不安感がポルトガル、スペインなど他の南欧諸国へも波及し、各国の株式市場が大きく値を下げたタイミングだったため、議論は自ずとギリシャの問題に集中した。
そこから見えてきたのは、「自由な資本移動」「為替レートの安定」「独立した金融政策」の3つが同時に成立することはないというトリレンマに挑む欧州の姿だった。
ユーロ加盟で問題を先送りにしたギリシャ
ギリシャの財政問題にスポットライトが当たったのは2009年11月。欧州の政策当局者がギリシャの財政計画や統計の信頼性に強い懸念を表明したことがきっかけだった。12月に格付け機関がギリシャの格付けをBBB格まで引き下げたことで市場の不安が一気に高まり、同国のクレジットスプレッド急拡大につながった。
当初、市場は、ギリシャは経済規模も小さく、いざとなればドイツやフランスなど他のユーロ圏諸国が救いの手を差し伸べるとみていた。しかし、各国当局者や欧州中央銀行(ECB)首脳がギリシャに対する厳しい姿勢を表明するようになると、ギリシャの「ユーロ離脱」や「デフォルト」が語られるようになった。
筆者は1月20日付「金融・経済対策の『出口』を抜け出せるか?」で、ギリシャ問題への対応が欧州の構造問題解決への試金石と論じた。しかし、今回の出張調査を通して、「欧州の政策当局者は、ユーロ圏小国が抱えるトリレンマ問題に本気で取り組むために、危機を演出している」という結論にたどり着いた。
ギリシャは2001年にユーロに加盟。「自由な資本移動」と「為替レートの安定」を得た代償として、「独立した金融政策」を放棄した。
「独立した金融政策」は、健全なマクロ政策運営に責任を持つ政策当局者にとって不可欠なオプションだが、ギリシャにとってそれは苦痛ではなかった。