ロイターは1月12日、米エール大学のロバート・シラー教授のインタビュー記事を配信した。同教授は、米国の内外でこのところ広がっている楽観論に、厳しい警告を発した。

 シラー教授が開発に携わったS&P/ケースシラー住宅価格指数は、2009年5月から9月まで5カ月連続で前月比プラスを記録したが、10月は上昇が止まった。シラー教授は、1月27日に発表される次回11月分は4月以来の下落になるだろうと予想した上で、「今後数カ月は上昇ではなく下落が続く可能性が高い」「私は二番底(a double dip)を心配しており、不動産価格のさらなる下落を心配している」「私は住宅価格が下落を再開することを心配しており、ここで問題になるのは今後さらにどれくらい下落するかだ」とも述べた。

 シラー教授によると、「負債が住宅価値を上回っている住宅が全体の何%なのかについては異なる試算があるが、それが何%であるにせよ、住宅価格が下落し続ければ、劇的に高い数字になり得る。そしてそれは追加的な債務不履行の危機につながる。銀行がいま心配しているのはそうしたことであり、彼らは将来起こり得る危機を想定している」という。

 住宅価格については、少し前になるが、米ハーバード大学のフェルドシュタイン教授も、厳しい見方を口にしていた。

 昨年12月17日にブルームバーグラジオに出演した同教授は、オバマ政権による住宅市場支援策は失敗だと断じ、「単に支援策が十分に考えられていなかったというだけの問題ではない。支援策は失敗に終わった」「(住宅市場低迷が)今後も住宅価格を押し下げるだろう」「住宅価格の落ち込みが(2009年)夏頃に一時期落ち着いたが、それは住宅初回購入者向けの支援策によるものだ。この先はそうした押し上げ要因がない」と述べた。

 また、フェルドシュタイン教授は1月4日に行われたパネルディスカッションで、「これらの形の景気刺激策が2010年には消え去ることになる。そしてそれは短期的な経済見通しの中に、深刻な曇り(a serious cloud)を作り出している」「住宅と商業用不動産の市場が沈滞しており、国じゅうの地方銀行が貸し出しを抑制している限り、堅固な景気回復は実現し難い」と述べた。

 このところ出てきている米国の住宅関連統計は、まちまちな内容である。また、13日に発表された最新のベージュブック(地区連銀景況報告)によると、昨年末にかけて住宅販売は大半の地区で低価格物件を中心に増加したものの、住宅価格は前回12月報告時点からほとんど動いておらず、住宅建設は大半の地区で低い水準にとどまったという。

 しかし、ここで注目すべきは、今年3月いっぱいで米連邦準備理事会(FRB)による住宅ローン担保証券の買い入れが打ち切りになる上に、4月末には延長されて実施されている住宅減税が期限切れとなるということである。これらの刺激策が消滅した後も米国の住宅市場が順調に回復していくとは、筆者には考え難い。駆け込み需要の反動で需要が落ち込む一方、住宅の供給は引き続き高水準の差し押さえ物件の市場放出によって増えやすく、シラー教授が予想しているように、住宅価格の下落が再開することが十分予想される。

 ロイターのインタビュー記事は、シラー教授の次のような発言で締め括られていた。白川方明日銀総裁による「偽りの夜明け」発言を想起させる内容である。筆者は引き続き、大きなバブルが崩壊した後の構造調整圧力(米国の構造不況)を軽視している楽観的な見方からは、完全に距離を置いている。

 「人々はバブル崩壊の後遺症が非常に長引き得ることを忘れている。われわれが最後にそうした大きなバブル(の崩壊)に直面したのは大恐慌期であり、それは非常に長く続いた」

 「不幸なことに、私はそれ(1990年代に不動産市場が崩壊してから15年連続で、日本で住宅価格が下落したこと)が、これから起きるかもしれないことのお手本だと考えている」