石巻のカキを北海道に「輸出」、
すくい網の名人が動いた

2011.09.20(Tue) 高成田 享
筆者プロフィール&コラム概要

 三陸海岸では、メロウドを追ってくれる海鳥を神として祀る神社もある。船がエンジンを動力としていることを除けば、動物に魚を追わせ、カモメで群れを見つけるという原始的な漁ということになる。

 そうした漁では、人間の知恵と技が大きくものを言うわけで、須田さんも周囲からは名人と言われている。確かに、メロウドの群れに最初に近づくのは須田さんということが多かった。そのうえ、網を入れても、失敗することはなかった。ほかの船を見ていると、なかなか獲れないようで、漁業無線では「だめだった」という声が何度も流れていた。跡継ぎとなる一紀さんも「とても親父のまねはできない」と言っていたのが印象に残っている。

 須田さんの船には、その後もアナゴ漁の時期に乗せてもらった。表浜は全国有数のアナゴの出荷場所だ。「ど」という筒状の道具にエサを入れてアナゴを呼び寄せるアナゴ漁もなかなか興味深いものだった。というわけで、須田さんは私の漁師の先生ということになる。

共同処理場が壊れてカキの殻をむけない

 その須田さんから「思いあまって、あなたに電話しようかと思っていたところだ」と言われた。

 すくい網漁の船は無事だったが、冬場の収益源であるカキ養殖が全滅した。地域の養殖漁業者と共に、残った種ガキを修復したカキのいかだに植えて、この冬のシーズンからの出荷を目指しているのだが、共同処理場が壊れたため、販売することができないというのだ。

 このあたりは、共同処理場でカキの殻をむき、ビニールの袋に詰めて出荷している。ところが、このカキむきの処理場が津波で壊れてしまったため、カキを収穫しても出荷することができないのだ。

 それなら殻付きで売ったらいいじゃないですか、と私は言った。表浜のカキは旧北上川の運んできた栄養をたっぷりと食べて育ったもので、おいしさではどこにも負けない。それなら、むき身ではなく、オイスターバーなどで出す殻付きで出荷したら、と考えたのだ。これなら処理場はいらないし、キロいくらで売るのではなく1個ずつ売るのだから利幅も大きいはず。逆転の発想でいきましょうと話をした。

 ところが、その後、調べてみたら、殻付きのカキは、それ専用のかごに入れるなど、「少数精鋭」で育てていて、むき身用のカキとは育て方が違うということが分かった。むき身がだめだから殻付きでは、とは簡単にいかないのだ。素人のアイデアでは通用しない世界だということに気づいた。

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1948年生まれ。東京大学経済学部卒業。71年に朝日新聞社に入社。山形・静岡支局員、東京経済部員、アメリカ総局員(ワシントン)、経済部次長、アメリカ総局長(ワシントン)、論説委員などを歴任。96年から97年にかけてテレビ朝日「ニュースステーション」キャスターを務める。定年後にシニア記者として2008年1月より2011年2月まで石巻支局長。2011年4月より仙台大学教授。仙台白百合女子大学非常勤講師、前橋国際大学客員教授。農林水産省太平洋広域漁業調整委員会委員。主な著書に『ディズニーランドの経済学』(共著)、『アメリカの風』、『アメリカ解体全書』(共著)、『榎本武揚』(共編著)、『こちら石巻 さかな記者奮闘記』『話のさかな・コラムで読む三陸さかな歳時記』(共編著)などがある。


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