来年1月20日、筋書きのないドラマ「金融危機」の第2幕が始まる。米国民は建国以来初のアフリカ系大統領を「主役」に抜擢し、経済復活の望みを託す。しかし危機が終息しても、米国が「唯一の超大国」として君臨する冷戦後のパラダイムには戻らず、世界経済は急ピッチで多極化に向かうだろう。それなのに、「ポスト金融危機」の国家戦略を描けないのが日本の実情だ。
「日米同盟の強化が日本外交の第1原則だ。国際社会が直面する諸課題に日米が緊密に連携し、対応していきたい」。11月7日朝、オバマ氏との初の電話会談で麻生太郎首相がこう呼び掛けると、次期米大統領は「(福井県)小浜市のこともよく承知している」とユーモアのセンスを示したうえで、「(日米)同盟を強化していきたい」と応じた。「お約束」の答えを引き出せて、日本政府の関係者は全員、胸を撫で下ろしたに違いない。
しかし、相変わらずの「日米、日米、日米・・・」で日本はパラダイムの転換期を乗り切れるのか。
「アメリカの対外政策は、ときには将来を見通して、国益と理想と他国の利益に同時に貢献を果たしてきた。そしてときには、他国民の正当な願望を無視し、わたしたちの信用を傷つけ、より危険な世界をもたらしかねない誤った前提に基づいて誤った方向へ導かれてきた」(『合衆国再生』棚橋志行訳・ダイヤモンド社)。オバマ氏は自著の中で「一国主義」の外交政策を転換する姿勢を鮮明にしており、いずれ日本政府の「日米一辺倒」政策は空洞化するかもしれない。
しかも、今回は40年ぶりに戦時下の米政権交代。前回はベトナム戦争が泥沼化する中、ニクソン氏(共和)が当選から6日後にホワイトハウスに乗り込み、ジョンソン大統領(民主)と戦時移行協議を行った。ニクソン大統領は戦争終結に導くが、米国社会は重い後遺症を患い、ライフスタイルや倫理観が様変わりした。例えば、家族の絆が弱まって食卓を囲む伝統が崩れる半面、マクドナルドに代表される新たな産業が出現した。
危機前の姿に戻らぬ世界経済
大和総研の武藤敏郎理事長(前日銀副総裁・元財務事務次官)は JBpress とのインタビューで、「(金融をめぐる)一連の混乱は、米経済にとって相当なパラダイムシフトを引き起こす可能性がある。米国は世界支配の構図をなかなか再構築できず、それには時間がかかるかもしれない」と指摘した。次期政権の政策に関しては、「イラク撤退を主張するオバマ氏が大統領に就任するため、“世界警察” という米国の意識が薄れ、内向きになる可能性もある」と予想する。
そのうえで、武藤氏は「日本(政府など)はまだ米国一国優位のビジネスモデルを信じているが、私は日本が世界戦略を変えざるを得ないと見ている」と言明した。「この混乱から脱却すれば、世界経済は混乱の前の姿に戻ると皆が何となく思っている。しかし実際には、パラダイムが変わっている可能性が強い。それなのに誰もそういう議論をしておらず、十分な認識がない」「われわれの世界戦略を(米国一辺倒から)新たなパラダイムに合うよう構築し直すことが非常に大事な問題になる」と主張し、永田町・霞が関に意識改革を迫っている。