母屋で「おかゆ」なのに、離れ座敷では「すき焼き」――。
自民党・小泉政権下の2003年、当時の塩川正十郎財務相が発した名言である。「母屋」とは財政赤字に苦しむ国の一般会計であり、「離れ座敷」は各省庁が積立金の名目で「埋蔵金」を貯め込んできた特別会計を指す。
特別会計改革の必要性を説いた「塩爺」(しおじい)の意思を忠実に受け継いだのは、皮肉にも自民党政権に引導を渡した鳩山政権である。その経済政策「ハトノミクス」が成功を収めるには、特別会計という名の「伏魔殿」との闘いを避けては通れない。
特別会計の予算規模169兆円、毎年10兆円余剰?
日本の国家予算は一般会計と特別会計に分けられる。年末の予算編成時期になると、マスコミがスクープ合戦に鎬を削るのは一般会計であり、その予算規模は2009年度当初で88.5兆円に達する。
実は、一般会計からは特別会計に51.4兆円に上る「仕送り」が行われており、特別会計の予算規模(純計額)は169.4兆円に膨らむ。仕送り後の一般会計と比べると、実に4.5倍もの規模なのだ。
特別会計の仕組みは複雑であり、いや霞が関の官僚が知恵を絞って意図的に複雑にしており、55年体制下では政官財のトライアングルが癒着する温床になっていた。
一方、マスコミは省庁ごとの記者クラブ縦割りで予算取材に当たり、しかも仕組みが比較的分かり易い一般会計に偏重している。筆者の自戒も込めて言えば、特別会計に対する監視は十分ではなかった。
こうした中、時事通信社経済部の菅正治記者は霞が関の厚い壁に挑み、膨大な資料と格闘しながら、『霞が関埋蔵金』(新潮新書)を書き上げた。「伏魔殿」の正体を暴いてみせた労作を、本稿は参考にしている。