前回は近年の核兵器をめぐる世界各国の動向として、その歴史的背景と米国の変化を中心に見てきた。今回は、日本にとって最も大きな脅威となってきたロシアおよび中国、そして北朝鮮の動向に焦点を当てる。

(2) ロシア

ア ロシア軍の対ミサイル防衛能力の強化とMD突破戦略戦力の配備

 ロシアは経済の再生に伴い、ミサイル防衛(MD)と対MD関連新装備の取得に努めている。

 地上軍では2011年度には、新型のS-300V4対空ミサイルとBuk-M2中距離防空システム、Tor-M2短距離防空システム、携帯式の防空システムを受領する。ロシア軍は今後、先進的で効率的なものしか調達しないとしている。

 地上軍は引き続き、イスカンデルM戦術弾道ミサイル、新型の多連装ロケットシステム、自走砲、BTR-82A装甲人員輸送車、対戦車ミサイルシステムを受領する。

 なお、新型のS-300V4に関する情報は秘匿されている。このように、地上軍の対ミサイル防衛能力の増強近代化が重点的に進められている。

 RS-24大陸間弾道ミサイルにより装備された初のミサイル連隊も任務に就いた。

 RS-24は、今後15年から20年間、予想されるミサイル防衛システムを制圧する任務をやり遂げる能力を持つ、非脆弱な移動式のミサイルであり、移動型ICBMトーポリ(Topol)の優れた点を集約したものであるとされている。

 またロシア海軍は2011年度には、ブラバ(Bulava)新型潜水艦搭載弾道ミサイル(SLBM)を受領する予定である。ブラバは新型のボレイ(Borei)級原子力潜水艦に搭載され、今後のロシアのSLBMの主力になるミサイルである。

 これまで何度も発射試験に失敗してきたが、2010年10月に成功し、2011年には一連の試験が計画されている。ブラバは10発の核弾頭を搭載し、射程は5000マイル、トーポリをSLBMに改良したもので、トーポリと同様にミサイル防衛網を突破する能力を持っているとされている。

 さらに2011年4月には、新型のSLBMシネワ(Shineva)の発射試験が行われた。バレンツ海の海中から発射されたシネワは、カムチャツカ半島の目標地域に予定時間に着弾した。

 シネワは重量40トン、高さ50フィート、直径が6フィートあり、最大時速8マイルで目標に突入し、地中180フィートの深さまで到達するとされている。4発から10発の各種弾頭を搭載可能で、射程は6200マイルに達する。

 これらの新型ミサイルの特色は、移動式か潜水艦搭載型で残存性が高く、大型多弾頭で破壊力と射程が大きく、ミサイル防衛網を突破する能力を持っている点である。これらのミサイルの開発配備は、米国のミサイル防衛網配備に対抗して第2撃核戦力の均衡を維持しようとする、ロシア側の意志と実力を示す動きと言える。

 戦略防衛についても、ロシアも独自のミサイル防衛システムを開発配備しており、戦略核バランスもすでに、攻勢、防勢両面の総合的な戦略戦力の均衡が問われる段階に入っている。

 またロシアは、対ミサイル防衛網と核攻撃戦力を戦略レベルから戦術レベルまで切れ目なく展開しようとしており、各レベルで攻防が一体となった核、通常火力両面の整備を図っているものと見られる。ロシアの伝統的な火力重視姿勢が表れている。