ナポリではなく横浜生まれ、
「ナポリタン」こそ日本の正統派スパゲティだ

2011.07.08(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 ナポリタンは戦後まもなく、横浜にある1927(昭和2)年開業の「ホテルニューグランド」で誕生したと言われている。ホテルニューグランドは、ドリアやプリン・ア・ラ・モード発祥の地としても知られる洋食のメッカだ。

 終戦直後の1945(昭和20)年、来日したダグラス・マッカーサー元帥は厚木飛行場に降り立った足で、ホテルニューグランドに向かった。以後、ホテルは7年近くにわたりGHQに接収される。

横浜・山下町にあるホテルニューグランド

 進駐軍は、そこへ軍用食として大量のスパゲティとケチャップを持ち込んでいた。茹でたスパゲティにケチャップを和えて食べる――そんな彼らの粗食を見かねた当時の総料理長・入江茂忠が、ケチャップの代わりに生のトマトとたまねぎ、にんにく、トマトペースト、オリーブオイルを使ったトマトソースを考案。ハムとマッシュルームを炒めてスパゲティに加え、先のトマトソースを和えて、パセリのみじん切りとパルメザンチーズをふりかけた一品を完成させたという。

 4代目総料理長・高橋清一による『横浜流』(東京新聞出版局)には、「ナポリタン」の名前の由来が記されている。

 <中世の頃、イタリアのナポリでスパゲッティは、トマトから作られたソースをパスタにかけ、路上の屋台で売られた貧しい人々の料理でした。当ホテルではそれをヒントに「スパゲッティーナポリタン」と呼ぶことにしました>

 だが、この誕生秘話を読んでかすかな違和感を覚えた。ナポリタンの痕跡を追って、古い料理本を調べていたところ、戦前にすでに「ナポリ風」という言葉が使われていたからである。

 イタリアのナポリは、もともとパスタに使われる硬質小麦の産地だ。アメリカ大陸からもたらされたトマトをソースとして和えるパスタ料理は、この地で17~18世紀頃には存在していた。それがフランスに伝わり、ナポリ風スパゲティ、つまり “Spaghetti Napolitaine”(スパゲッティ・ナポリテーヌ)と呼ばれるようになった。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


食の源流探訪

日本人が日常茶飯としている定番食。あまたある食べものの中で、
なぜそれが定番になり得たのか。どのように日本化されていったのか。
「新・日本食」の源流からの流れを、歴史をひもときながら考察する。