今回から、本流トヨタ方式の土台にある哲学を説明したいと思います。まず、なぜ「哲学」なのかをお話ししましょう。

 日本の自動車メーカーで「元気のよい会社はどこか」と尋ねると、多くの人はきっと次の3社を挙げると思います。トヨタ、ホンダ、スズキ──。

 この3社の共通点を探せば、「元気のよい要因」を見つけられるのではないでしょうか。

 偶然、3社は発祥の地が浜名湖のほとりなのですが、これとは別にまず気がつくことは、「創業者の名前が付いている」ということです。

 これは、その会社には「創業者の明確な経営理念があった」(要因その1)ことを意味します。お金を儲ける手段として、たまたま「自動車生産」があったのではないということです。「自分たちの力で自動車を作りたい」という確固たる目的があり、会社の設立はその目的を達成させるための「手段」だったのです。

目的は「いい車を作りたい」ということだけ

 次に気がつくのは、いずれも小さな会社から始まり、急速に成長して今日があるということです。

 片田舎の小さな自動車メーカーに入社するのは、どういう人でしょうか。「楽をして儲けたい」「いい暮らしをしたい」という人は安定した会社を目指します。いわゆる「エリート」は絶対に入社してこないでしょう。

 こういう会社に集まるのは、根っからの「自動車大好き人間」がほとんどです。「自動車作りに参加」することだけが目的で、収入は生活を維持する分だけあればよいという人間です。筆者もその分類に属する人間で、当時は「三河板金」と陰口を言われるほどの田舎の自動車会社「トヨタ」に入社したのでした。

 当時、トヨタに入社する人間は、言葉は悪いですがほぼ間違いなく「自動車バカ」です。「一生懸命働く人間にお天道様と銀めしはついてくる」と信じ、出世競争なんて眼中にありません。目指すのは、ただ「いい自動車を作って送り出す」ということだけ。 「社員全員が目的を共有」(要因その2)し、全力を挙げて目的達成のために取り組みます。そして社員はそんな「チームワーク」の中に身を置くことを喜びと感じています。

 こういう人たちを大事にしてきたからこそ、3社は成長し続けることができたのだと思います。

カーナビに頼るとどうなるか

 さらに3社の共通点として、「製品を自力で開発し、他の企業と技術提携をしてこなかった」(原因その3)ことが挙げられます。戦争が終わって間もない頃、当時の大手メーカーはやがて到来する乗用車時代に備えて、相次いで海外の先進乗用車メーカーと技術提携をしました。図面を買って、その通りに生産(ライセンス生産)して売り出したのです。

 自力のオリジナル開発にこだわっていた「純国産」メーカーの車はデザインも野暮ったいスタイルでした。一方、ライセンス生産の車は大変スマートに映ったものでした。野暮ったい純国産車は売れ行きも苦戦したに違いありません。しかし、数年経つと、野暮ったかった純国産車はモデルチェンジをしてスマートになりました。その後もどんどんモデルチェンジを重ね、その度にスマートになっていきました。

 一方、ライセンス生産に手を染めたメーカーは、その後、オリジナル開発に乗り出すのですが苦戦を強いられ、うち2社は乗用車生産から撤退してしまいました。

 これは、カーナビゲーションシステムを例に取って説明することができます。

 行ったことのない未知の場所に行くのに、確かにカーナビは便利です。迷いそうな交差点では的確に指示を出してくれ、素早く目的地に行けます。でも、到着してみて思うのは、目的地以外の所は全く分かっていないし、次に来る時もカーナビが必要だということです。