金融市場は驚くほど落ち着きはらって「その日」を迎えた。

 従業員23万人、世界各地に生産拠点を保有する巨大企業、ゼネラル・モーターズ(GM)が6月1日朝、連邦破産法11条(チャプター11=日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。負債総額1728億ドル(約16兆8000億円)。

NY株急伸、211ドル高 GMは75セントで変わらず

GM破綻でも、株式市場は活況だった(ニューヨーク証券取引)〔AFPBB News

 超ど級の倒産にもかかわらず、その日の、株式市場は活況に沸き、ダウ工業株30種平均は今年9番目の上げ幅となる前営業日比221ドル高の8721ドルで取引を終了。9000ドルの大台回復もいよいよ視野に入った。注目度の高い米景況感指数が改善したことも買い材料となったが、市場関係者は口々に「悪材料が出尽くした」「先行き不透明感が薄れた」とリスク投資復活の背景を説明した。

 世界販売台数では、昨年、トヨタ自動車に首位の座を譲ったとはいえ、米国自動車産業の象徴として君臨し続けてきたGMの経営破綻は、本当に「買い材料」なのか。ロイター通信によれば、GMの3月末時点の総資産822億ドル(約8兆円)は、米国の破綻企業としては、昨年9月の証券大手リーマン・ブラザーズ、2002年7月の通信大手ワールドコムに次ぐ過去3番目の大きさだ。

最大の製造業倒産でも緊張感無し

GM、破産法申請を前提に新提案 債権者も支持

製造業としては米国最大の経営破綻(米ミシガン州デトロイトのGM本社)〔AFPBB News

 リーマンは金融危機の引き金となり、ワールドコムはエネルギー卸大手エンロンの破綻に続いて企業会計不信を増幅させた。ましてやGM破綻は製造業としては米国史上最大。本来ならその衝撃度は「先達」2社に劣らないはずだ。

 オバマ大統領はGMの破産法申請直後にテレビ演説し、「新しいGMの始まり」と経営改革を強調し、国民に痛みを甘受するよう求めた。金融市場に混乱を与えぬソフトランディングに、「巨大企業の倒し方の見本」(米投資会社幹部)と米政府に賞賛の声すら上がっているが、大規模リストラとGMの実質国有化に伴う財政負担のリスクの説明はなく、米国民は目隠しをされたままだ。

 「今日のランチ、一緒にどう?」――。6月1日早朝、GMの破産法適用が秒読み段階というのに、親しい株式トレーダーからのん気なメールが入った。「GM破綻」の一報をとにかく早く記事にしなければと、身構える筆者の緊張感との激しい乖離に頭がクラクラした。しかし、その後も、取材の電話を入れるたびに、金融関係者からは「GMってそんなにニュースなの?」と逆質問をされる始末。市場にとってGMの破産法申請は、話題にも上らぬ織り込み済みの出来事でしかなかった。

「GMは再建できる」、オバマ大統領

「GMは再建可能」と大統領がお墨付き〔AFPBB News

 無理もない。オバマ大統領がGMに対して6月1日を最終期限とする新再建計画提出を求めたのは3月30日。その後、同社のヘンダーソン社長兼最高経営責任者(CEO)は記者会見などで、「債権者との協議が不調に終われば破産法申請に踏み切らざるを得ない」と再三発言。期限が近づくにつれ、債務削減交渉が難航している様子が伝えられ、破産法申請は確実視されていたのだ。

 大統領が用意した2カ月間の猶予期間の中間点にあたる4月30日には、同業クライスラーが破産法申請に追い込まれている。破産裁判所は、本来なら回収可能なクライスラー債権を紙くず同然に扱い、債権者である大手金融機関も実質的な債権放棄に同意した。早期再建を優先させる強引な手法は、「米政府の意思」(大手証券)と解釈され、「GM処理の予行演習」(同)との共通認識が出来上がった。