『マネジメント』(ダイヤモンド社)をはじめ、2005年に亡くなるまでに、39冊に及ぶ本を著し、多くの日本の経営者に影響を与えた経営学の巨人ドラッカー。本連載ではドラッカー学会共同代表の井坂康志氏が、変化の早い時代にこそ大切にしたいドラッカーが説いた「不易」の思考を、将来の「イノベーション」につなげる視点で解説する。
連載第4回は、自らの「強み」を「コアコンピタンス」とし、収益を生み出す方法について、トヨタ自動車、アマゾンを例に考える。
自分以外の何者にもなれない
世にはたくさんの成功者がいる。成功企業がある。「私もあの人のようになりたい」「この人みたいな事業を展開したい」。なんとなく努力すれば理想的な誰かになれるような気がしてくる。
しかし、残念ながらかなわない。いや、かなうはずがない。理由は簡単である。あなたはその人ではないし、あなた以外の何者でもないからだ。誰か別の人になんかなれないし、なりたいと思うべきでもないとドラッカーは言う。「指紋のように自らの固有の強みを発揮しなければ成果を上げることはできない」と語っている。
多くの昔話が教えているように、自分以外の何者かになろうとすると良い結果を生まない。魔が入り込む余地を作ってしまうから、やめておいた方が賢明だ。むしろ自分の中にある唯一無二のものを大事に育てていくべきだとドラッカーは考えた。その核心にあるものを彼は「強み」と呼んだ。
ならば、誰でも「強み」を見出して、用いられるものなのだろうか。ドラッカーなら、「それはもちろんできますよ。ただし、簡単ではありませんがね」と答えるだろう。