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 2025年11月にオープンAIとクラウド基盤の利用契約を結んだアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と、クラウドファンディング大手のキックスターター。この2つの「クラウド」は、起業や大企業の事業立ち上げの常識を大きく塗り替えた。前者は高速・低コストのIT基盤を提供し、後者は消費者を投資家へと変える仕組みで資金調達を刷新した。『ビジネスモデル全史[完全版]』(三谷宏治著/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集し、その革新の本質を読み解く。

3つのクラウドと『メイカーズ』が示す未来。「超分散ネットワークモデル」

ビジネスモデル全史〔完全版〕』(日経BP 日本経済新聞出版)

■ 起業のハードルを下げるアマゾンの「クラウド」

 インテルの業績を支えた「クラウド・サービス」のクラウドは、「(cloud)」を指します。手元のPC内でなく、空の向こうの雲58の中で、データの保管も計算も全部やってくれる。それがクラウド・システムであり、それを(無料もしくは従量課金などの)サービスとして提供するのがクラウド・サービスです。

 典型的なものはグーグルなどの検索サービスでしょう。手元の端末内で行われるのは検索語の入力と表示だけ。元データの保管も、検索の計算も、その表示準備も、グーグルが世界中に持つ数百万台のPCサーバーの中で行われます。

 GmailやYahoo!(Webメール)、LINE、AmazonといったWebアプリケーション(ブラウザー上で動くもの)、Dropbox(データ保存)といった独自アプリケーションで動くものも59、みな消費者向けのクラウド・サービスです。

 クラウド・サービスはまた、法人向けにも拡がっています。営業支援ソフトをWebアプリケーションで提供したセールスフォース・ドットコム(salesforce.com、1999~)が先駆でした。そして、そういった特定の業務支援サービスでなく、コンピュータの計算資源やデータ保存能力自体を外部に提供したのがアマゾンです。自社EC事業のために構築していた膨大なITインフラストラクチャを「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS:Amazon Web Service)」として06年から外販し始めました。

58 ネットワークとサーバー&ストレージ群。
59 スマートフォン上ではほとんどがアプリとして独自に動いている。