ワールドで紳士服ブランド「タケオキクチ」などを立ち上げた寺井秀藏氏は、「卸事業にはロスやリスクが大き過ぎる」と危機感を持っていた
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 アパレル業界では長く、流行の変化に生産が追いつかず、大量の在庫リスクを抱える構造が常識とされてきた。その常識を覆したのが、ワールド寺井秀藏氏によるプル型SPA「SPARCS(スパークス)構想」だ。セブン-イレブン鈴木敏文氏の言葉に衝撃を受けた寺井氏は、従来の卸中心の商習慣を抜本的に見直し、究極のクイックレスポンス体制を築いた。『ビジネスモデル全史[完全版]』(三谷宏治著/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集し、その革新性を探る。

GAPがつくりZARA・ユニクロが変えた「SPAモデル」

ビジネスモデル全史〔完全版〕』(日経BP 日本経済新聞出版)

■ アパレル業界に垂直統合モデルを持ち込んだGAPとベネトン

フィッシャー夫妻
1969年に夫妻で2.1万ドルずつ、子どもたちの貯金から同額を「出資」させて創業。ドリス・フィッシャーは現代美術愛好家としても著名でコレクションの価値は10億ドルを超える。

 自動車よりPCより、もっともっとリスキーで水平分業化されて分散的なビジネスだったファッションアパレル業界を、垂直統合して規模の効くビジネスに変えたのが、GAP(ギャップ)とベネトンでした。

 リスクの根源は速度のズレにありました。外部環境である「流行」の変化速度に、内部環境である「産業バリューチェーン」の速度が、まったく追いつけなかったのです

 アパレル業界は長大なバリューチェーンを持ち、それらがすべて水平分業されていました。染料メーカーが原料を確保して染料をつくり、紡績メーカーが糸を撚(よ)って染めて、織物メーカーが織って布地にして、アパレルメーカーが企画して、縫製メーカーが切って縫(ぬ)って、それが小売店に卸されて、ようやく店頭に列びます。

 この間、丸2年。企画から店頭までだけでも1年余り。流行は数週間で移り変わるのに、これで追いつけるわけがありません。当然のことながら、ファッション性の高いものは、少量多品種生産の高価格品とならざるを得ませんでした。