写真提供:Meir Chaimowitz/Jakub Porzycki/NurPhoto/CFOTO/日刊工業新聞/共同通信イメージズ

「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 今回は、八木氏流の「ブランド」の定義と、ブランドのデザインの仕方について、ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂の例で紹介する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年8月13日)※内容は掲載当時のもの

■ 「ブランド」はらしさ

「ブランド」と言うと、シャネルやルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドを想像される方も多いと思います。「ブランド品」という言葉などもありますが、実はブランドは「ラグジュアリーブランド」を指すわけではありません。

 ブランドの語源は、「焼印をつける」という言葉からきていて、もともとはワインの樽や家畜などに焼印をつけることを意味していたそうです。ブランドという言葉が本来指すのは、似たものが混在する中で、競合商品と間違えないための印であったと言うことができます。

「近代マーケティングの父」とも呼ばれるマーケティング界の第一人者、フィリップ・コトラー教授は、ブランドを次のように定義しています。

 アメリカ・マーケティング協会は、ブランドを、「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合会社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」と定義している。ブランドは当該製品やサービスに、同じニーズを満たすために設計された他の製品やサービスから、何らかの形で差別化する特徴を加える。その差別化要因は、機能的、合理的、あるいは実体がある――つまりブランドの製品パフォーマンスに関連する場合もあれば、象徴的、情緒的、あるいは実体がない――ブランドが体現するものに関連している場合もある。

――フィリップ・コトラー+ケビン・レーン・ケラー
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編』
(ピアソン・エデュケーション、2008)

 この説明は難しく、直感的に理解しづらいので、私なりに再解釈したものが以下になります。

 ブランドとは、名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせが一貫した思想と世界観のもとで開発されており、独自の価値(=らしさ)を持つもの。