
「自由と秩序」の両立によって機能不全から蘇り、飛躍の途へ――。そんな理想を体現した企業が世界には存在する。ルールによる抑圧的な管理を放棄し、人と組織を解き放った革新的なリーダーたちは、何を憂い、何を断行したのか? 本連載では、組織変革に成功したイノベーターたちの試行錯誤と経営哲学に迫った『フリーダム・インク――「自由な組織」成功と失敗の本質』(アイザーク・ゲッツ、ブライアン・M・カーニー著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第1回は、いまだ多くの経営者がコストとして容認する「テイラー主義」(科学的管理法)と「フリーダム・インク」(人々が解放された企業)の関係を解き明かす。
■はじめに
自由(フリーダム)は効く。
政治でも経済でも、娯楽でも家庭生活でも、私たちは生活のあらゆる側面で、誰にも何にも縛られることなく自分で何でも決めたいと思っている。だが、こと仕事になると、官僚的な仕組みやルールがはびこって多くの人がそれらに縛り付けられ、制約され、抑圧され、束縛されてしまっている。職場のルールなど、仕事でベストを尽くせるかどうかとは何の関係もないのだが。こうした制約のおかげで、誰もが職場では自分の思い通りにならないと感じ、ストレスや疲労感によってやる気をなくしてしまう。
驚くべきことに、このような問題はすでに、いや数十年前から十分に理解されていた。1924年に、3M(スリーエム)の伝説的なCEOのウィリアム・L・マックナイトはこの問題を簡潔に要約している。「自分の周囲に柵が置かれると、人はただ従順な羊になってしまう。人にはそれぞれが必要としている場所を与えたほうがいい」
マックナイトはこの信念を胸に、3Mで働く人々が創造性と主体性を発揮できる環境づくりに取りかかった。しかし、マックナイトが3Mに築いた文化(カルチャー)は称賛されはしたものの、こぞって真似されることはなかった。