当時、新幹線が高速でトンネルに入る時には、大きな衝撃音が発生し、特に客室内の騒音が問題になっていた。そこで仲津は、先頭車両の先端を、カワセミのくちばしに似せた形状に変えることにした。
カワセミはそのおかげで、空気抵抗を抑え、ほとんど水しぶきをあげずに空中から水中に飛び込むことができるからだ。彼は、趣味の世界で得た知識を新幹線の設計に取り入れて、その形状を変えたことで、騒音を大幅に低減させ、新幹線のさらなる効率的運行を可能にしたのである。
私たちは、創造的プロセスのほとんどを見聞きすることなく(つまり経験することなく)過ごしている。そのことが、こうした学際的アプローチの価値が正当に評価されない原因なのかもしれない。どんなものも実は、ちょっとしたリミックスなのだ。
際立って優れて見えるものも実際には、何かを借用したり、組み合わせたり、改変したりしたものであることが多い。にもかかわらず、私たちには、こうしたつながりを体験し、それを発展させていくための個人的な時間と空間が不足している。
趣味の世界は、そのような贅沢な時間と空間を与えてくれる。その世界は、仕事や家庭のような、人生の大部分を動かしている力の及ばないところにある。そして、私たちの注意を、コンフォートゾーン〔安全で居心地の良い環境〕や型にはまった日常から、別の方向へと向けてくれる。
普通であれば、出会うはずのない人々に出会わせたり、行くはずのない場所に行かせたりもする。さらに、独自の課題も突きつけてくる。こうした課題に積極的に取り組み、その解決策を別の分野に応用しようとする努力が、しかるべき時に、しかるべき場所に、しかるべきアイデアをもたらすのに役立ってくれるはずだ。
<連載ラインアップ>
■第1回 ハリー・ポッター、グーグル検索、GUI…革新的なアイデアは、なぜ最初は無視されてしまうのか?
■第2回 ブラジャー、マジックテープ、新幹線…開発成功の鍵となった「ある共通点」とは?(本稿)
■第3回 仕事を熟知し、豊富なアイデアを持っているはずの管理職が、なぜ創造力を発揮できないのか?(12月20日公開)
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