写真提供:ZUMA Press/共同通信イメージズ、Japan Innovation Review編集部

「経験は当てにならず、決断は難しい」。古代ギリシャの医学者・ヒポクラテスの言葉が示すように、経験は判断を誤らせ、ときに致命的な結果をもたらす。一方で、人は経験から多くを学習し、経験を意思決定に生かしている。この齟齬(そご)と矛盾はなぜ生じるのか。本連載では『経験バイアス ときに経験は意思決定の敵となる』(エムレ・ソイヤー、ロビン・M・ホガース著/今西康子訳/白揚社)から、内容の一部を抜粋・再編集。経験の「罠」にはまることなく、経験を適切な意思決定につなげるためのアプローチを解説する。

 第1回は、優れた作品や技術が登場した際、その革新性を見誤ってしまう「経験の罠」について考える。

ひらめきの喪失――経験が創造力を削いでしまうとき

 好評を博して大成功を収めたアイデアを思い浮かべよう。

『ハリー・ポッター』もそうだし、グーグルもそう、パソコンもそうだ。絶大な人気を博し、絶賛される創造的コンセプトとして、これらが21世紀の暮らしや文化の一端を担ってきたことに異論はほとんどないだろう。

 では、その思い浮かべた例について、それを成功に導いた要因をいろいろ挙げてみよう。当然、多くの理由があるはずだ。あなたは驚くほどすらすらと、その理由を挙げられるのではないだろうか。

 たとえば、『ハリー・ポッター』シリーズは、私たち読者を魔法界に連れて行ってくれる。そこで不利な状況に置かれても懸命にがんばる弱いヒーローの物語を読みながら、読者も共に成長していくのだ。

 友情、冒険、戦い、愛と憎しみ、善と悪――年代を問わずすべての読者が、この物語の中に、自分にとって大切なものを見出すことができる。

 シリーズ全体を通して、サスペンス、スリル、驚き、さらにユーモアを盛り込んで、巧みに描かれている。シングルマザーとして長年、悪戦苦闘を続けてきた著者J・K・ローリング自身の成功への熱い思いが、人々の心に訴えかける。理由はまだまだある…。