池上 日本の大企業の社員って、偏差値が高くて有名な大学を卒業しているという、まあ同じようなタイプの人ばかりですよね。ダイバーシティ(多様性)に欠けている。

 これじゃ突拍子もないアイデアなんて生まれるわけがない。それこそイーロン・マスクや、アップルを創業したスティーブ・ジョブズみたいな人は、どうしたって出てこないですよ。せっかく面白い人がいても、「こいつ空気読めねえな」みたいな話になってしまう。

入山 日本企業の多くでイノベーションが生まれない理由はそこにあります。失敗を許さない文化を持っているからです。しかし、失敗することは、経営学的に見ても決して悪いことではありません。「失敗は成功のもと」というように、人は失敗したことで「知の探索」をするからです。

 たとえば、スティーブ・ジョブズは典型的な「知の探索」人間でした。アップルはデザインに定評があり、特にフォントが美しいとされていますが、これはジョブズが学生時代に学んだカリグラフィー(西洋書道)がルーツです。

 彼は本業から遠く離れたことにいろいろ関心を持ち、それをたくさん組み合わせていました。だから、音楽ソーシャルネットワークサービスの「Ping(ピング)」など、実は失敗の数も膨大でした。

池上 そういった多くの失敗があったからこそ、一方でiPhoneなど大ヒットも生まれたということですね。

入山 はい。イノベーションの源泉は、新しいアイデアを生み出すことです。知を持っているのは人間なので、多様な人がひとつの組織にいたほうが、離れた知と知の組み合わせが起こりやすくなり、より「知の探索」につながります。

 でも「知の探索」は失敗も多いから、くじけやすく、つい「知の深化」ばかりやりたくなる。そこで、「探索」を続けるために重要なのが、第一章でお話しした「センスメイキング理論」です。「腹落ち」をしていれば、踏ん張ることができる。何を目指すべきか納得ができているので、方向性がブレる心配も少なくなります。

 センスメイキング理論によると、そもそも腹落ちは行動しない限り生まれません。やる前に計画や分析をしても、自分では納得していないことが多いわけです。

 とりあえず行動して試行錯誤して、そして後で振り返ってみることで「あ、こういうことだったんだ!」と、自分自身が腹落ちするストーリーができるんです。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ不可能の連続を成し遂げられるのか?ソフトバンク・孫正義氏の「センスメイキング」とは
■第2回 「今の日本にはイノベーションが足りない」、ホンダ、ソニー、アップルが行っていた「知の探索」はなぜ重要か?(本稿)
■第3回 スノーピークやユーグレナにはなぜ熱狂的ファンが集まるのか? いい意味で"宗教的な"企業が増えている理由(10月17日公開)
■第4回 松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫…「お金のためだけじゃない」経営は、なぜ長期的に企業を成長させるのか?(10月24日公開)
■第5回 アメリカ企業のCEOは、なぜ破格の年俸をもらっても周囲から妬まれないのか?(10月31日公開)

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