本来、エネルギーは経済活動の根幹であり、その安全供給を死守することは国民の生命と財産を守るための最重要事項、まさに国家安全保障の要である。それにもかかわらず、エネルギーをめぐる総合的な戦略はいまだに存在せず、エネルギー安全保障の概念は浸透していない。

 また、2030年度までの温室効果ガス46%削減を表明した以上、エネルギー安全保障は気候変動対策とも表裏一体に絡めて、包括的に取り組む必要がある。化石燃料から脱炭素エネルギーへのシフトが国内外から要求される中、バランスをとりながらどのような方策で対応すべきか検討が必要だが、現行の戦略にはその論点は含まれていないようである。

 日本のエネルギー産業の脆弱性に対して、経済安全保障の取り組みは国民安全保障政策という全体の安全保障の一環として、整合性を持って追求する必要がある。新たな安全保障戦略に向けて議論が必要な今こそ、改めてエネルギー安全保障のあり方を多層的に考えなければならない。

 日本のエネルギー安全保障を改善することは、国内政策としても対外政策としても喫緊の課題であることは間違いない。

 どういった道筋で、日本経済がエネルギーにおいて戦略的自律性と戦略的不可欠性を確保することが可能だろうか。経済安全保障の観点からエネルギーを論じることは、従来の取り組みも含めて政策の優先度を上げる意味合いでも、また異なる政策の関連を考える上でも有意義である。

 あらゆる経済活動の根幹を支え、国民の生命と財産の安全に直結する財であるエネルギーの安定供給についての目線がなければ、どんな議論も国民にとっては現実味を欠き、理解を得られないかもしれない。

 経済安全保障の取り組みを含めて、日本のエネルギー安全保障を改善するためには、今後どのような道筋を描くことができるか。より広い国家安全保障戦略として、どのようなプランが必要か、そうしたことも含めて、今改めて検討すべきだ。

<連載ラインアップ>
第1回 日本が経済安全保障戦略で「黒字国」から「赤字国」に転落した3つの構造的理由
第2回 経済社会秩序を守る「経済安全保障」政策の展開は、なぜ政府にとって困難を伴うのか?
第3回 「中国は戦略的競争の相手国」米国が対中強硬路線を鮮明にした経済安全保障上の理由とは?
第4回 コロナ禍やウクライナ侵攻で浮き彫りとなった、サイバー空間における経済安全保障の課題とは?
■第5回 国家安全保障の要と言えるエネルギー産業、日本の供給体制はなぜ脆弱なのか(本稿)
■第6回 英国はなぜ国家間のコロナワクチン争奪戦に勝利し、世界初の接種を実現できたのか(10月28日公開)

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