イノベーションは「価値創造」と「価値獲得」の両輪で成り立つ
――ラピダスとJASMの経営戦略の比較を通じて、日本企業は何を学ぶべきでしょうか。
長内 次の2つのことを学ぶべきだと思います。1つは「大規模な生産から逃げない」ことです。日本企業は「技術で差をつけるのだから、いたずらに数を追わない」と考えがちですが、過去のケースに照らすと、中途半端なビジネスで終わっているケースが多いのです。技術で差をつけることは重要ですが、21世紀のデジタル技術の時代には「数を追う」ことも同時に行わないと、利益を出すことができません。
なぜならば、デジタル技術の多くは機能・性能が「ソフトウエア」と「半導体」によって決まるからです。ソフトウエアも大規模な設備投資を伴う半導体も固定費になります。そのため、ビジネスの基本構造としては数を追わなければ儲からないのです。
また、デジタルの時代になると、同じ品質のものを大量に複製できます。そのため、そこでは「規模の経済性」が働き、数を稼がなければ儲からなくなります。結果として、大規模に生産する企業だけが生き残るようになるのです。

デジタルの時代の製造業は、大前提として「数を追うこと」から逃げてはいけません。その意味では、アナログからデジタルへの転換は、技術的な変化であると同時に、ビジネス構造にも大きな転換をもたらしたといえます。
――デジタルの時代に学ぶべき「もう1つのこと」は、何でしょうか。
長内 もう1つは「顧客をきちんと見ているか」ということです。日本企業は、これまで「自分たちの技術さえ良ければ、お客さまは後から付いてくる」という発想が根強く残っていました。しかし、新たな技術がいかに優れて便利なものでも、お客さまが買ってくれなければ意味がありません。
そして、十分な利益を獲得できないのであれば、それは「イノベーション」ではなく「インベンション」(発明)にすぎません。お客さまが買ってくれるのは、技術ではなく製品なのです。
日本でイノベーションについて議論をすると、新しいものを生み出す「価値創造」(Value Creation)に注目が集まりがちですが、生み出したものから経済的な利益を確実に得る「価値獲得」(Value Capture)も重要なイノベーションです。
新たな技術からどのようにして自国、または自社に持続的な利益を確実にもたらすようにするか、という視点です。「価値獲得」の議論がしっかりとなされて初めて、最先端の技術がイノベーションにつながると考えています。
【後編に続く】ソニー「CMOSセンサー」成功の秘密、4代目岩間社長から継承した「引き算の発想」とは
■【前編】最先端ではなく「10年前の半導体」を作るJASMに政府が大型投資をする納得の理由(今回)
■【後編】ソニー「CMOSセンサー」成功の秘密、4代目岩間社長から継承した「引き算の発想」とは
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