JASMの経営戦略が「ラピダスとは対極をなす」と言われる理由
――著書では、JASMの経営戦略がラピダスと対極をなす、と述べています。JASMの経営戦略の特徴はどのような点にあるのでしょうか。
長内 JASMの経営戦略は「最先端ではなく最多需要の獲得」を目指している点が特徴です。JASMが作る製品は22~28ナノですから、10数年前に“最先端”と言われた、世代でいえば4~5世代も前の古いものです。
では、なぜJASMが古い技術の半導体を作るのか、という点が重要です。この22~28ナノの半導体は、現在最も需要の大きい半導体なのです。
このレベルの半導体が多く使われるのは、自動車産業です。自動車の場合、その部品である半導体は、振動や埃(ほこり)、熱といった劣悪な環境の中で使用されるため、耐久性が必要となります。そのため、「最先端の部品」よりも「使い慣れた部品」の方が適しているのです。従って、安定した品質が求められるわけですが、その中心となるのが「22~28ナノ」の半導体です。

つまり、JASMは顧客や市場が「今、何を望んでいるのか」を考えた上で、あえて10年前の半導体を作ろうとしています。JASMには顧客がきちんと見えており、そこでの最多需要の獲得を狙っているわけです。
ここで興味深いことは、JASMが最先端の半導体を作るわけではないのに、日本政府が6000億円規模の基金を設置し、JASMへの大型投資を行うとしている点です。これまで日本政府の投資戦略では「最先端の領域であること」「どこの国も作っていないもの」に投資するという基本方針が見受けられました。その基本を変えてまで、JASMに数千億円もの投資をしているのです。
――日本政府はJASMの経営戦略を評価した、ということなのでしょうか。
長内 そうですね。日本政府がJASMの経営戦略を評価し、テクノロジーをビジネスオリエンテッドの発想で投資をしていることの証しと言えます。既に顧客が見えているもの、ビジネスが成立しているものに対してしっかりと投資する、ということです。
こうした動きは、これまでの日本政府の方針にはなかったことであり、そこには大きな意識変革があったものと思われます。同時に、日本政府は最先端を追求するラピダスにも投資するわけですから、「ハイリスク・ハイリターン」と「ローリスク・ローリターン」の両睨みの投資を行う形です。
さらに言えば、日本はJASMを通じて世界最先端の「半導体の製造」を学ぶこともできるはずです。かつて、日本は1980年代に半導体製造の世界トップを走っていました。しかし、その後には衰退の一途を辿り、現在日本の半導体は40ナノの製造が限界です。
JAMSには多くの日本人が関わります。だからこそ、この機会にもう一度、現在の世界トップである台湾の半導体製造プロセスをしっかりと学び、新たな人材育成と技術修得を行うべきだと思います。そうした取り組みが次世代の日本の製造業にとって、今最も重要なことだと考えています。