ⒸSpaceX Webcast

 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第5回はスペースX、ボーイングなどが続々と成果を出しつつある新型有人宇宙船の開発の最新動向に迫る。

マスク氏いわく「人類の多惑星化に近づいた」

 2024年6月6日、2機の新型宇宙船の飛行テストに全世界の注目が集まった。

 通算4回目の無人飛行テストが実施されたのはスペースX社の超大型機「スターシップ」。21時50分(JST、以下同)、テキサス州から東に向けて打ち上げられた同機は、8分後に時速約2万6500km(秒速7.4km)を記録。24分後には高度213kmに達し、45分後に大気圏再突入を開始して、1時間6分後にインド洋への柔着水に成功した。

 その直後には、前日に打ち上げられたボーイング社の「スターライナー」がISS(国際宇宙ステーション)へのアプローチを開始。さまざまなトラブルが発生したものの、翌7日の午前2時34分にはドッキングに成功。クルー2名をISSに送り届けたことにより、スターライナーは史上2機目の民間有人宇宙船としてデビューした。

 この十数年間にわたって進められてきた各国各社の新型有人宇宙船の開発が、今続々と成果を出しつつある。なぜ今、新型の有人宇宙船が必要とされているのか? その開発はどのような状況にあるのか?

 大気圏再突入時には機体に圧縮断熱と呼ばれる現象が起こり、スターシップの船体はプラズマに包まれ高温になる。今回の飛行テストでは前方フラップが破損したが、着水時まで稼働し続けた。ⒸSpaceX

 スペースX社のスターシップは史上最大の打ち上げシステムであり、その全長は121m。

 第1段のロケットブースターと、第2段の宇宙船から構成され、NASAのアルテミス3計画(2026年9月予定)では月着陸機として使用される。つまり、月周回軌道上でオリオン宇宙船とドッキングし、スターシップにトランジットしたクルー2名を月面へ送り届け、再びオリオンに帰還させるのがその役目だ。

 今回の飛行テストでは大気圏再突入時にフラップが損傷したが、第1段と第2段の海上への軟着水にも成功。その開発工程を大いに前進させた。しかし、現状では多くの課題が残されている。地球周回軌道での有人飛行、ドッキングシステムの作動、軌道上での燃料補給、月軌道への投入、無人での月面着陸など、ハードルの高い技術実証を2年数カ月で行う必要に迫られている。そのためNASAはアルテミス3計画の内容を変更することも検討し始めている。

 マスク氏は6月9日に自身のX上で、「(計画の)実現に時間がかかっていて申し訳ない、しかし今私たちは(その実現)に非常に近づいている」とツイートした。ただし彼が言う「実現」とはアルテミス3ではなく、「人類の多惑星化」を意味する。マスク氏にとってアルテミス3は途中経過であり、彼の目標は以前から変わらず「人類の火星入植」にある。