日本能率協会コンサルティング取締役の石田秀夫氏

 バブル崩壊後の「失われた30年」を経て国際競争力を大きく低下させた日本経済。しかし、日本能率協会コンサルティング(JMAC)取締役の石田秀夫氏は、製造業に注目すれば日本企業は決して負けているわけではないと指摘する。その上で日本の製造業は将来に向けてどのような手を打っていくべきなのか。2024年3月に開催された「ものづくり・現場力事例フェア」において、石田氏がJMACの製造業実態調査レポートをひもときながら、日本の製造業の現状と今後の勝ち筋について語った。

国際比較から捉える、日本の製造業の現在地

石田 秀夫/日本能率協会コンサルティング(JMAC)取締役、生産コンサルティング事業本部本部長、TPM事業本部本部長、デジタルイノベーション推進本部担当役員

大手自動車メーカーの技術職を経てJMACに入社。生産部門及び開発設計部門の収益・体質改善活動を主に企業支援を行う。「ものづくり」を広くテーマとして捉え、トータルなマネジメント・人材改革に取り組み、また「まねできないものづくり戦略」を研究・普及中である。

 かつて世界トップと評された日本企業の付加価値生産性は、この30年間ほぼ横ばいで、相対的に順位を落としてきた。しかし、製造業に注目すれば、就業人員が減少しているものの付加価値は増しており、一人当たりの付加価値生産性は上がっている。

 JMACで一貫してものづくり企業のコンサルティング・研究に携わってきた石田秀夫氏は、「日本企業の付加価値生産性の低迷には、日本企業のブランディングの弱さが影響している」と指摘する。日本企業はコストを積み上げて製品のプライスを決めるが、ブランディングに長けた海外企業は、原価に関係なく「顧客が感じる価値」をベースに値付けをし、売っているのだという。

 一方、労働生産性の比較においては、世界トップの米国と比べて日本は大きく落ちている。しかし、米国の生産性はGAFAなどのビッグテック企業が大きく引き上げているという面がある。そのため製造業の生産性では、米国ではなくドイツをベンチマークするべきだ。

「例えば自動車産業で日独を比較すると、ブランディング以外では、日本がドイツに勝っている点がたくさんあります。特に現場の物的生産性では、日本に大きな強みがあります。ただドイツは、デザインルールから設計を共通化するなど、アーキテクチャに強みがあります。日本でもトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャなどが始まっていますが、まだ後れを取っているといえるでしょう」(石田氏)

 コスト競争では、日本の製造業は中国に敗れ続けてきた。しかし、かつては日本の20分の1だった中国労働者の給与水準が、現在は2分の1程度にまで追い付いてきている。生産性をしっかり上げれば、コスト競争にも勝てるはずだ。

 さらに為替の追い風もあり、2023年の輸出総額は比較可能な1979年以降で過去最大となっている。石田氏は、「早稲田大学教授の藤本隆宏先生の主張をお借りすると『日本の製造業は、勝ったとはいえないが、決して負けてもいない』」と語り、今こそ将来に向けて手を打っていくことが重要であると強調した。