ハイクオリティーなだけの製品では売れなくなってきた今の時代、製品の付加価値を高める価値として注目を集めるのが「感性価値」だ。「感性価値とは、人の感性に訴え、感動や共感を呼び起こすものであり、ウェルビーイングやサステナブルな社会の実現に向けて不可欠なもの」と関西学院大学の長田典子教授は話す。感性価値を創造する感性工学とは何か、なぜ今ものづくりで感性価値が重要視されるのか。同氏に話を聞いた。
今、ものづくりで「感性価値」が重要視される3つの理由とは
——「感性工学」を研究されています。感性工学とはどのようなものでしょうか。
長田典子氏(以下敬称略) 製品に関するユーザーの主観的感覚を分析し、得られた知見を次の製品のデザインに生かすための学問分野です。
もともとは布の風合い評価など、人の感覚を使ったものづくりに端を発していると考えられます。1986年に、当時マツダの社長であった山本健一氏がミシガン大学で「Kansei engineering」というテーマの講演をして以降、感性工学という学問名が使われるようになったと言われています。
日本発祥の学問であり、近年では経済産業省が日本製品の高付加価値化を推進するために「感性価値創造イニシアティブ」を策定したことなどもあり、「感性価値」の重要性が高まっています。
感性価値とは、機能、信頼性、価格といった従来の製品価値に加えられる「第4の価値」とされ、製品やサービスが人々の感性に訴え、感動や共感を呼び起こすものです。
感性価値創造の研究では、生活シーンでのわくわく感や快適感、製品の高級感や特別感といった、人の感性を計測し、定量化、シミュレーション、再現、拡張することで、感性価値を創出していきます。
——なぜ今、ものづくりで感性価値が重要視されているのでしょうか。
長田 理由は3つ考えられます。1つ目は、ハイクオリティーな製品が売れなくなってきたからです。もはやクオリティーが良いだけのものを作っても、消費者の需要を喚起するのは難しくなっています。
2つ目は、社会が変容し、人の幸福度が重視されるような風潮が高まっているためです。そもそもモノの量や質ではなく、人の幸せなど感性に働きかける視点が必要になっています。
3つ目は、市場のグローバル化が進む中、日本の産業競争力を強化するためです。日本ならではの魅力を海外に展開していくには、品質や性能に加え、感性価値を加えた商品やサービスの提供が重要と考えられています。
ウェルビーイングやサステナブルな社会の実現、SDGs達成に向け、これまでのものづくりの延長線上のやり方に限界を感じている企業も少なくありません。こうした時代背景の中で、感性価値を創造していく意義がより重要視されるようになりました。