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 日銀がマイナス金利政策を解除し、金利の引き上げを決めたものの円安が続いている。フィンテックや地方銀行の再編などへの関心も高まる金融業界で、今どのような変化が起きているのか。

『週刊金融財政事情』編集長の田中弘道氏に、注目される日銀、金融庁、金融機関の動向について聞いた。

担保融資の流れを大きく変える金融庁の監督指針と法案成立

【週刊金融財政事情】
1950年に一般社団法人金融財政事情研究会の創立と同時に創刊された、日本で唯一の金融専門誌。金融機関の経営、金融資本市場のトレンド、金融検査・監督方針など、金融ビジネス注目のテーマをいち早く解説。電子版「きんざいOnline」も公開中。

――これから金融業界に大きな影響を及ぼす可能性が高いトピックは何でしょうか。

田中弘道氏(以下・敬称略) 二つあります。一つは金融庁がこの4月に改正した「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」です。

 2020年からの新型コロナウイルス感染拡大に伴い、中小企業への資金繰り支援が行われてきました。しかし現状、パンデミックがほぼ一段落したので、ここからは資金繰り支援にとどまらず、その一歩先を見て、地域金融機関が融資先企業の事業再生や経営改善への取り組みを積極的に行うよう、監督指針を改正しました。

 これまでは、金融機関としては何とか企業を存続させる方向で資金繰りを付けることに注力してきました。その結果、いわゆるゾンビ企業の延命につながったとも指摘されています。改正監督指針では、これ以上経営の継続が困難と思われる企業を私的整理や法的整理で畳むことも視野に入れています。一方で、再生の余地がある企業は、事業再生や経営改善に資金を付けて復活させるなど、幅広い選択肢を用いて金融機関が地域企業を支えていくように促しています。

 もう一つは、今国会での成立を目指す「事業性融資の推進等に関する法律」です。これまでは事業者が金融機関から融資を受けるには、不動産や経営者の個人保証など、個別の有形資産を担保にする必要があったのですが、これからは、事業の実態や将来性を含めた「企業価値担保権」に着目した融資を受けられるようにしよう、というものです。

 これは金融業界にとって非常に大きなトピックです。なぜなら、明治時代から続いてきた担保融資の流れが、大きく変わる可能性があるからです。この法律が成立すれば、不動産などの有形資産をほとんど持っていないベンチャー企業でも、事業の将来性いかんでは融資を受けられることになります。

――これまで担保融資が前提だった金融機関の意識は変わるでしょうか。

田中 今回、この事業性融資の推進に取り組むため、金融庁は事業性融資推進本部を設置します。そのくらい本気で銀行業界の意識を変えようとしています。

 本来、金融機関が行う融資は、経営者の人となりを見て、事業の将来性を検討した上で実行するべきものです。

 ところが日本の金融機関は、リスク回避意識が強いからなのか、不動産担保や経営者の個人保証によって厳重に保険をかけ、融資先の返済が滞ったとしても、自らは極力リスクを負わずに済むように融資を行うとやゆされたりします。ここにメスが入ったことによって、金融機関は本来の姿に立ち返ることになります。

 パンデミックが一段落したことによって、経済は正常化に向けて動いています。「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の改正と「事業性融資の推進等に関する法律」の成立は、経済が正常化に向かう中で、金融機関も正常に戻るべし、との意思を示し、在り方を問うものとして注目しています。