2009年度に7873億円の過去最大の赤字を計上したことを契機にスタートした日立製作所の事業構造改革。プロダクトの製造・販売が中心だった業務形態から、「顧客や社会の課題解決につながるソリューション」を提供する形態への転換を図るべく、多くの事業を入れ替えるポートフォリオの見直しを進めてきた。2022年にはコネクティブインダストリーズセクターが発足し、事業横断的なソリューションを産業界、社会に提供している。同セクター発足に併せて事業戦略統括本部経営戦略本部の本部長に就任したハジャティ 史織氏に日立製作所の構造改革の狙いを聞いた。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年6月23日)※内容は掲載当時のもの
現場と経営、異業種間の隙間をソリューションで「つなぐ」
――日立製作所で2022年4月に「コネクティブインダストリーズ」が発足しました。このセクターの役割について教えてください。
ハジャティ史織氏(以下敬称略) 「コネクティブインダストリーズ」は従来のプロダクトの製造・販売が中心だった業務形態を、顧客や社会の課題解決につながるソリューションとして提供する形態に変えようと、新たに設立したセクターです。
具体的には日立が有する中量産で競争力の高いプロダクトを中心に、そのプロダクト・設備を動かし制御・運用するOT(オペレーショナルテクノロジー)、その上位レイヤーで経営管理を行うITの3層をつなぐことで、現場から経営までを「つなぐ」ソリューションを提供していきます。
ここでいう中量産とは、半導体ICチップなどの大量生産品ではなく、それなりの規模で量産を行うプロダクトを指します。ビルの昇降機や空調機器、ヘルスケアでは生化学免疫分析装置、電子顕微鏡やDNAシーケンサー、半導体分野なら半導体計測評価装置、産業分野なら空気圧縮機、マーキングシステム、変圧器、ロボットなどです。
コネクティブインダストリーズセクターは、ビルシステム、家電・空調分野のアーバンGr.、ヘルスケア・半導体分野のアドバンストテクノロジーGr.、産業分野のインダストリーGr.の3つのグループから構成されます。この3つのグループの中量産プロダクトを核にソリューションを展開しています。
先ほど「現場から経営までをつなぐソリューション」と言いましたが、ソリューションは現場と経営の間以外にも、サプライチェーンの間や、異業種間に存在する隙間、いわゆる当社が「際(きわ)」と呼んでいる隙間をつなぐことも目指しています。
そのときに生かしていくのが、当社が持つドメインナレッジやデジタルの力。この「つなぐ」が、コネクティブインダストリーズセクターのパーパスになっています。
――「際(きわ)」をつなぐ意図はどこにあるのでしょうか。
ハジャティ 今、工場等が抱える課題は「新設備をどう建設するか」「生産計画をどう最適化するか」といった単純な改善では済まないものが多くなっています。
またCOVID-19のインパクト、自然災害の増加、地政学的リスクの増加など、社会環境は急激に変化しており、社会課題そのものが各分野をまたがり、複雑かつ複合的なものになってきています。
そうした中で、私たちが個々のプロダクトを提供して生産性を高めたとしても、それだけではお客さまの課題解決にはならない場合が出てきます。そうした複雑な課題を解決するには、組織や企業間の隙間である際(きわ)をつなぐ必要があるのです。際をつなぐことで、双方のデータが自由に行き交える状況を作り出すことが必要だと考えています。
そのため、コネクティブインダストリーズセクターでは従来のように単にプロダクトを提供するだけでなく、経営層の方から課題や悩みを伺い、その解決に資するプロダクトやOT、ITを全てまとめて「トータルシームレスソリューション」として提供することを目指しています。